14  @2023年、東京

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14  @2023年、東京

@2023年、東京  あの後、彩夏との会話は盛り上がらなかった。当然といえば当然だった。  当たり障りのない話をして、彩夏は仕事に戻っていった。  それは予定通りの行動だったが、明は自分が吉行の話題を出したせいで、彩夏が早く仕事に戻ったのではないかと訝った。  明は最初に吉行の話題を出したことを後悔したが、さすがに死んでいたことは想像がつくはずがない。  明は自分を責めたり、仕方ないと諦めたり開き直ったりしていたが、それは自分の側の事情で、やはり彩夏に申し訳ないと思った。  久々に会い、旧交を温めたいと思っていただろう彩夏の期待に応えられなかった。 「やっぱ・・・ 気になるな・・・」  明は仕事の手を止めて、スマホを手に取る。  何度も繰り返していた行動だった。もう悩まずにとりあえずメッセージを送ろうと思う。  彩夏さん、お疲れさまです。  この間は、すみませんでした。  でも、久しぶりに会えて楽しかったです。嬉しかったし。  ありがとうございました。  書いた文章を二度ほど読み直す。 「なんか、お別れのメッセージみたいだな」  そうなっても仕方ないと思う。  もう仕事の付き合いでもないので、気分やそのときの思いひとつでいつでも切れる関係なのだし、もともと吉行のことが聞きたくて呼び出したのだ。  その動機からして、彩夏には申し訳ないことをした。  彩夏はただこちらを懐かしがってくれたのに。  もちろん、明にも彩夏を懐かしいと思う気持ちはあった。でなければ、吉行のことを聞きたくても呼び出すはずがない。  自慢ではないが、自分はコミュニケーションが下手な人間なのだ。さすがに、コミュ障などと言われるほどのレベルではないが。  そんな人間なので、親しくない、好きでもない相手を呼び出して、何かを探り出すような能力や度胸はない。  そんな気持ちを伝えたくて打った文章を、ちょっとべたべたしすぎかなとか、年のわりにバカっぽいかなと思いつつ眺める。 「もういいや。えいっ!」  と勢いをつけて送信した。  百点満点のメッセージなんてないし、それが自分に作れるはずもない。  自分はそういうものから一番遠い人間だ。 「そうだ」  明はつぶやいて、黙り込む。  そんな自分に、ほしい言葉をくれるのはいつも譲だ。  自分はもらっているばかり・・・ 「そうか」  自分は譲のために何かできているのだろうか。何か役に立っているのだろうか。  十代や二十代の若者でもないのに、ただ側にいることはできると、そんなことだけに甘えて頼っていていいのか。  譲はほんとは物足りないのでは。  もらっているものを返せていないのでは。少し年が下なだけなのに、自分は譲に甘えすぎている。  そんなことを思っていると、スマホが震えた。  彩夏からラインで音声通話の呼び出しが入る。明は慌てて通話に出た。 「もしもし」 「あ、おつかれー。いま、ちょっといい?」 「あ、はい。もちろん」 「この前はごめんね。時間なくて」 「いや、こちらこそ。なんか、変なこと聞いちゃって」 「ああ、涼介のこと? 気にしないで。知らなかったんだもんね。仕方ないよ」 「はあ」 「ねえ、また会わない?」 「え?」 「今度はお酒でもどう? ゆっくりながーく話せるときにさ。結局、何も話せてないしね」 「そうですね・・・」 「いや?」 「そんなことないです。ぜひ」 「じゃあ、決まり。またラインするね。予定調整しよう。じゃねー」 「あ、はい。じゃあ、また」 「バイちゃ」  通話が切れる。  彩夏は、やっぱり変わってないなと思う。  明るさと思いやりがあり、人をひっぱっていくリーダーシップがある。  それも強さや力で抑え込むのではなく、この人と居たら何か楽しいことがあるのではないかと思わせるような誘惑の力があり、それで人を引っ張るのだ。 「敵わないな」  明は苦笑して、ペンを持ち、パソコン画面に向かう。  しっかりと仕事を進め、空き時間を作り、今度こそじっくり彩夏に向かい合いたいと思った。
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