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05 @2013年、横浜
@2013年、横浜
銭湯から出たものの、明はその場から離れられなかった。
とりあえず、銭湯の一階部分にあるコインランドリーに入り、置いてあったパイプ椅子に腰を下ろす。
サウナで隣り合った男のことが頭から離れなかった。
「泣いてたのかな」
だとしたらどうだというのだ。
そうは思うものの、男がまだあそこに残っていると思うと、明はこの場を離れる気がしないのだった。
カタカタと小さな音をたてながら、ダイナミックに中のものを洗浄する大きな洗濯機を眺める。
業務用の洗濯機のパワーはさすがで、中の汚れものを容赦なく強い回転で内壁に打ち付けている。
家に洗濯機はあるが、たまにはこういうところに洗濯ものを持ってきて洗うのもいいかもしれない。
そんなことを思いながら、丸い窓の中で泡が踊るのを見ていた。
目の端で影のような何かが動く。
明は大きな窓から外を見た。コインランドリーの前の歩道を、さっきの男が歩いていた。
明は慌てて立ち上がり、外に飛び出した。
男に近づきながら、そこで初めて迷惑がられるかもと思い当たる。
それでも、もう止まることはできなかった。明は、思わず口を開いた。
「あの」
小さな声だったのに、男の足が止まる。
そして、首だけ回して、こっちを見た。男はぽかんとしていた。サウナの中とは違い、リラックスした表情だ。
「はい?」
明はゆっくりと男に近づいた。言い寄ろうとしていると見えるのだろうか。
でも、これだけのルックスであんなところに出入りしているなら、いろんな男に言い寄られ、いろんなめにあっているだろう。
そう思うと、ひどくびくついている自分のことが馬鹿らしく感じられた。
明は小さく頭を下げる。
「さっきは、その、すみませんでした」
「あ、いえ、、、こちらこそ」
男が小さく会釈を返してくる。
瞬間、大きな体がちょっとだけ縮んだ気がした。
「あの、良かったら・・・」
「・・・ はい?」
「メールアドレスとか、交換してもらってもいいですか」
これじゃ完全にナンパだな。明は思いながら、もうどうにでもなれと言い切った。
「はあ」
男は後ろ頭を小さく掻いている。男っぽい仕草が良く似合っていた。
「あの、気乗りしなかったり、迷惑だったら、断ってもらっても」
「あ、いえ、そんな。嫌じゃないです、嫌じゃ」
「あ、そうですか。。。良かった」
ほっとして思わず笑ってしまう。
それをみた男がはっとした表情を見せたが、すぐに、
「すみません、なんでもないです」
と笑ってごまかす。
なんだろうと思いながら、明は笑い返した。
男は、「ジョウです」と名のり、明も「アキラです」と名前を明かす。
そして、二人はメールアドレスを交換して、その場で別れた。
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