十年目の昔

07 ＠２０２３年、大阪

＠２０２３年、大阪

　午前中に外回りの仕事を終え、昼をとってから譲はオフィスに戻った。
　引継ぎはまだまだ先だが、重要な取引先には異動の件を伝えておかねばならない。　
　確定してるなら、早く伝えたほうが良い。漏れ伝わると相手の心証が悪くなる。

　そういった内容はさすがにリモートではどうかと思うので、譲はここのところ毎日、午前中は大阪の街を歩き回っている。
　部員たちは午後の営業に出ている者が多く、オフィスは閑散としていた。
　在宅勤務の影響もあるだろう。でも、譲は人口密度の低い、広いオフィスが嫌いではなかった。

　自席についてノートパソコンを開いたとき、胸のポケットでスマホが音をたてた。
　見ると、明からラインが入っている。

　おはよー。いま起きた。

　譲は小さく笑って、すぐに返信を打った。

　何がおはよーだ、昼の二時だぞ

　メッセージはすぐに既読になり、明から返信が入り、メッセージのやりとりをする。

　五時まで起きてたから、それでも眠い

　寝てばかりいると老けるぞ

　老けてもいいですー。もう、モテる必要もありませんし

「そりゃ、そうだ」
　自分もそうだと思い、笑いながらスマホを再び胸のポケットにしまった。