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09 @2023年、大阪
@2023年、大阪
「ただいま~」
言いながら、真っ暗な玄関に身を入れる。
玄関ドアが閉まるときにガチャリとたてる音と、手にさげたコンビニの袋が発するカシャカシャ音が混じって耳に流れてくる。
譲は革靴を乱暴に脱ぎ捨て、部屋にあがった。
電気をつけながら、短い廊下を進み、ダイニングキッチンに入り、また電気をつける。
灯りをつけると部屋が生き返るように感じ、つい無駄だと思いながらも点灯する。
ダイニングにある二人掛けのテーブルセットのテーブルにコンビニ袋を置き、スーツを脱ぎ、ネクタイを外し、ワイシャツの襟元を緩めた。
そして、袋から缶ビールを取り出し、リビングを通り抜け、ベランダに面した掃き出し窓のほうへ向かう。
譲は半開きになっていたカーテンを開き、窓を開ける。
ベランダに置いてあるサンダルに足を通し、風のないベランダに出た。
外に出ると、足元の国道を行き交う車の走行音に包まれた。
譲は、ベランダから身を乗り出し、下を行き交う車たちを眺めながら、ビールに口をつける。
車が放つ光が流れ、ときどき交差する。
その動きは特別なものではないが、途切れることがない。
途切れることのない変化のある景色なので、ついついだらだらといつまでも眺めてしまう。
「うまい」
譲はあっという間にビールを飲み干す。
胸のポケットに窮屈そうに収まっているスマホを取り出し、昼間の明とのやり取りを眺める。
もうモテる必要ない、か。
譲はにやりと笑い、
「めんこいのー」
ともだえるように、大きな体を揺らし、小さなスマホを抱きしめた。
他人には見せられない姿だと思い、スマホを胸のポケットに戻し、空を見た。
同時に、はあっと小さくため息をつく。
明とは出会って十年になる。それでも、明がときどき何を考えてるか、わからなくなるときがある。
それはお互い様なのかもしれないが・・・
譲は顔を上げて空を見た。
風なく空は晴れているのに、星はまばらにしか散っていない。
意外なほどの重い暗闇が広がっていて、譲は引き込まれるように空を見つめ続けた。
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