10 作家

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10 作家

 鉢合わせや二時間待ちということは当然考えられないが、噂によれば非合法で領域を訪れる客は大勢いるらしい。人によって目的は違うだろうが、純粋な『白』というものが見てみたかったということだろうか。他に理由はない。想像力がないので現物で代用しようと思ったわけだ。  客観的に見て画家としての腕は悪くない。テクニックの中にはハートもある。個展に来て感動して帰ってくれる人たちもいる。ありがたいことだ。だが足りないと思ってしまったんだな。  物の形は、それを再認識したとき、既に抽象化されている。それは写真のような細密画でも同じだ。静物や人物上の白は光と影の中から選ばれる。そこではじめて具象になる。  その先にあるのはイデアだと信じたい。信じたいというのは迷いがあることの裏返しだが、世界に埋もれた唯一つの原始的純粋抽象が割れ、纏まりとしての抽象が生まれ、それがさらに割れて/割れて/割れて個別の抽象に至り、最後に具象が生じたという現実のビジョンが頭から離れないんだ。  画家に写しとれるのは所詮現実の姿でしかないが、それを抽象の側から描きたいと思ったのさ。そうでなければ、高い金をかけて闇の運び屋を雇ったりはしない。
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