9 素人学者

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9 素人学者

 移動すると『白』は消えてしまう。元に戻るというべきか? だから、それを知りたければ領域内で調べるしかない。観光地化されているところもあるって? そりゃね、知ってるよ。 実際に出かけてみたこともある。  だが違うんだ!  比べたこともないのに断言するのもなんだが『白』の純粋さが違う気がする。それだけ危険性が少ないのかもしれないが、知りたいのはその危険性の方だからね。  時間説も空間説もあるが、方程式や数値計算を繰り返しても『白』の本質は再現されない。超ひもや超対称性やM理論のときのように時空の数を増やしていっても同じなんだ。  そんなに簡単に解けるわけないって? ごもっとも……。お偉い先生方にだって解けてないんだからさ。トンデモ以外に、これまで面白い説を聞いたことがない。  直感ならあるんだ!  時間の消滅、あるいは減衰説に与するような考えだが、入れ代わりつつある現象が『白』として見えているんじゃないかと思えるのさ。  ああ、入れ代わるのは時間と空間だ。空間同士じゃ区別がつかないし……。いや、そんなことないか? だが、違う二つの方がわかりやすいだろう。  不思議に思ったことはないかな? この辺りの宇宙は空間が三で時間が一だ。だが空間が二で時間も二の四次元多様体や空間が一・五で時間が二・五のものとか、それ以外の組み合わせが否定されているわけじゃない。まともに議論されたことはないがね。  想像できないって? 確かにな。  その中にいても、わからないかもしれない。ヒトは空間が三で時間が一としか認識できない存在なのかもしれない。構造的、というか進化/発生/認識的にヒトがちょうど二項対立でしかモノが考えられないのと同じように……。  で、それがどう繋がるのかって?  時間の空間化か、その逆の空間の時間化が起こっているんじゃないかと思えるんだ。式の立て方が思いつけないんで計算できずにいるんだがね。  で、話を戻すと警備されてるこの国のあの領域では隣接空間まで『白』の侵食があるって噂を知らないか?  ロシアと中国の『白』には、そんなものは見られないそうだ。少なくとも観光地として開放されている場所ではね。だから行ってみることにしたのさ。政府の許可は、まず得られない。御用研究者だって滅多に入れないって話だ。  領域は在って無き場所なんだな。ヒトのいない、かつての東ベルリンか、御所みたいに無視されている。付近の住民だって、今や気にかけもしない。  写真で見たって仕方ないしな。写っているのは『白』じゃないから。その場で、たとえば『白』の壁を分析しても結果はただのコンクリートだ。そんな論文は、いくらでも公開されている。だから見るしかないと思ったのさ。  馬鹿馬鹿しいと言ってくれて構わんよ。しかし直感を確信に変えるためには、この目でそれを見るしかないと信じたのさ!
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