エピローグ

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エピローグ

「はい、カット!!……ユリカ役の佐井美影さん、沙彩役の橋口愛衣さんオールアップです!」 その言葉と共に美影と愛衣のまわりに大勢のスタッフが集まってきた。 「ではカケル役の伊吹拓斗さん、お願いします!」 後ろで現場の様子を見守っていた拓斗が、その言葉に答え二人に大きな花束が渡すと、三人は互いに握手を交わし合った。 「では、橋口さんから一言お願いいたします」 「はい。今日までありがとうございました。先週まではとんでもない悪女を演じてきて……いろいろと葛藤もあったんですが、とても思い入れのある役になりました。最後にはどんでん返しもあり、どんな風に見てもらえるか今から楽しみです。ありがとうございました」 「ありがとうございます。続いて、主演の佐井さんお願いします」 「皆さん、ありがとうございました。ユリカという役は、純粋でひたむきに愛に向き合ってきたことで、たくさんの方に応援されてきた役だったので、この結末がどんな風に受け止められるか怖い部分でもあるんですが、私なりに精いっぱい演じたつもりです。最後まで、最高のメンバーとご一緒できて本当に幸せでした。ありがとうございました」 美影と愛衣は互いに見つめ合いほほ笑んだ。 あたたかい空気の中 「キャストの皆さん今日まで本当にありがとうございました。そして伊吹さんは次の作品でしばらく海外に行かれるとのことですが、体に気を付けて。応援しています。それでは……皆さまお疲れ様でした!撤収!」 と監督が締めの挨拶をすると、スタッフたちは散り散りに仕事に戻り、次の仕事があるという愛衣も足早に現場をあとにした。 美影の隣に残った拓斗は、ちらりと彼女の方を見て 「本当に言わなくて良かったの?」 と小さな声で尋ねた。 「うん。今言っても皆、混乱するだろうし」 美影は前を見据えたままそう答えた。 「そっか……でも、寂しくなるな」 「二人で決めたことじゃない」 「それはそうなんだけどさ」 小声で語り合う二人に気づいた美影のマネージャーが、慌てた様子で二人の元へ駆け寄り 「二人とも不用心ですよ。来週までは、気を張ってください」 と眉をひそめた。 「すみません」 軽く二人が頭を下げると、マネージャーは美影の手を引き 「じゃあ……」 と拓斗に軽く会釈をしたあと 「ありがとうございました!」 と大きな声をあげた。 それに続くように 「ありがとうございました!!」 と深々と頭を下げた美影は、再び大きな拍手で見送られた。 外に出ると太陽の光がまぶしいほどの快晴だった。 ふーっと大きく息を吐いた美影は立ち止まり、まだざわめきが残る現場を見つめた。 「美影?どうした?」 というマネージャーに 「最後の現場だから、ちゃんと目に焼き付けておこうと思って」 と笑顔で答えた。 翌週に放送されたドラマの最終回は、予想外の結末が話題を呼び 「沙彩の最後の微笑みは友情なのか。裏があるのか」 と大きな議論を呼んだ。 そして、その数日後 「伊吹拓斗・佐井美影が入籍!」 「佐井美影、電撃引退!伊吹と共に渡米」 「ドラマとは異なりハッピーエンドに!」 という文字がニュース記事の見出しに並ぶとドラマはさらなる脚光を浴びた。 二人の結婚会見で美影は 「カケルはひどい人でしたけど、伊吹さんは本当に穏やかに私に寄り添ってくれて。いつも私を支えようとしてくれる伊吹さんを、私も傍で支えたいと思いました。「ずっと一緒が良いの」…って思ってしまったんです」 とドラマで話題になったセリフを交え、会場を沸かせた。 女優・佐井美影の最後の出演作は、その年最大の話題作になり彼女の女優人生最大の代表作となった。 この作品で注目を集め、後にトップ女優となった橋口愛衣が生涯 「私に女優人生で最初の転機を与えてくれた人」 と語り続けたその人は、それ以降一度もメディアに顔を出すことはなかった。
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