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「頼むから騒がないでくれないか、リアム」  サミュエルはこめかみを指でもみほぐしながらリアムに言った。 「おまえの高い声はよく響くんだ。頭が痛くてたまらん」 「申し訳ありません、兄上」  苦しげに目を閉じるサミュエルを見て、湊はまるで自分のようだなと思った。湊も大学生の頃に偏頭痛を発症し、定期的なつらい頭痛に悩まされる一人だった。  そこまで考えて、「そういえば」と湊は声を上げながらサミュエルの机に歩み寄った。 「おれ、頭痛薬持ってますよ」 「頭痛薬?」 「えぇ。頭痛や腰痛を和らげる鎮痛剤なんですけど……」  ジャケットの内ポケットに右手を入れ、湊は市販の鎮痛剤の包装シートを一枚取り出した。まだ六錠残っていて、二錠分を切り取ってサミュエルに差し出した。 「一回一錠、一日三回まで服用できます。薬と薬の間隔は必ず六時間以上あけてくださいね。たくさん飲んじゃうと逆にからだを壊しますから」  よく効きますよ、と言い添えたが、サミュエルは気味の悪い虫を見るような目をして湊の手もとを覗き込むばかりだった。この世界ではこういった錠剤の薬はないのだろうか。 「これが薬なのか」 「えぇ。最初はこうやってフィルムに包まれていますから、一つ押し出して舌の上に載せて、水と一緒に飲み込むんです。そうすると有効成分が胃で溶け出して、頭痛を和らげてくれるんですよ」  サミュエルは訝しげな顔つきのまま湊の手から錠剤のシートをつまみ上げる。「へぇ、すごいね」とオーウェンも一緒になってしげしげと眺め始めた。 「薬草を()したものを凝固させているのかな?」 「おれも詳しいことはよくわかりませんけど、だいたいそんな感じだと思います。この一粒に痛みを取り除く成分がぎゅっと詰まってるっていうか」 「この国にはない技術だな」  ようやく納得したらしく、サミュエルは感心したように言い、湊のことをまっすぐに見つめて礼を述べた。 「ありがたくいただこう。何日かに一度というペースで頭痛に見舞われるのだが、いつも眠り薬を飲んで無理やり休んでいたんだ」 「だったらなおさらこの薬はいいかもしれませんね。眠気を誘引する成分は含まれていませんし、二十分もすれば効いてきます。痛みさえ治まれば公務に出ることも可能ですよ」 「ほう、それは助かるな。オーウェンに仕事を代わってもらうと毎度毎度文句の嵐でかなわんのだ」 「文句なんて言ってないじゃない」  オーウェンが不本意だとばかりに言い返した。 「僕はただ、自分の仕事が(とどこお)るのが嫌なだけさ」 「それが文句だというのだ。おまえはいつだって一言目に『えぇ? なんで僕が』と言うだろう。ものすごく嫌そうに」 「兄さんがなんでもかんでも僕に振ってくるからでしょ。リアムに頼めばいい仕事まで僕にやらせて……」  ささやかな兄弟ゲンカが始まった。静かに見守っているうちに、湊は胸がきゅっと締めつけられるのを感じた。
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