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美咲から『産まれました』、とある。
びっくりしてスマホを開く。
続いて写真が一枚。
透明の手袋をした手に抱えられた、産まれたばかりの赤ちゃんが写っている。顔をくちゃくちゃにして、真っ赤にして、エネルギーを解き放つかのように泣き叫んでいる。
その向こうでは、疲れているけど嬉しそうな顔をした美咲が、ぼやけて見える。隣には、お義母さんの顔半分とピースサインも写っていた。
鼻の奥がつんと染みて、涙があふれそうになる。
涙をこぼさないように、必死に目をしばたたきながらメッセージを打つ。思いつくままに、いくつも。
『えっ!』
『おめでとう』
『ありがとう』
『がんばったね』
『お疲れ様』
『やったー』
『本当にありがとう』
……やっぱり涙はこぼれた。
メッセージを打ち終えてパフェのグラスをもう一度見た時、僕の頭の中でバタンと大きな音が響いた。
扉が閉まる音。
閉まった扉の向こう側には、パフェに夢中になっている僕がいる。インスタ用の写真を撮るためにスマホを構え、美しいアングルを探っている。テーブルにひとつだけ置かれたパフェを少しだけ上から写した構図。
そんな写真は、もう要らない。ひとりで食べるパフェも、もう要らない。
今日で最後だ。
今度ここへ来るときは、二、三年後でいい。三歳くらいになれば、娘にパフェを食べさせても大丈夫だろう。苺パフェを二つ注文して、美咲と娘が並んで食べる。僕はその姿を見ているだけで、きっと胸がいっぱいになる。
僕が「ひと口、ちょうだい」とお願いしたら、娘はくれるだろうか? 多分、娘は全部食べられないだろうから、パパはそのおこぼれをもらうことにしよう。
僕は笑顔でスマホを構える。インスタに投稿することのない、とっておきの写真を撮る。
美咲と娘と、二つの苺パフェ——。
うん、最高の構図だ。
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