パフェのある構図

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 それ以来、美咲はもちろん、僕もパフェを口にすることはなくなった。  通勤途中にパフェのあるお店はなかったし、こそこそ食べる気にもなれなかった。美咲のつわりはなかなか落ち着かないので、買い物に寄ったり、夕食を作ったり、洗濯をしたりしてできるだけ家事を手伝うようにした。  どうしても甘いものが食べたいときは、コンビニに寄った。プリンを買って、その場で食べて店内のゴミ箱に捨てるのだ。この「隠れプリンの術」をすることで、僕のパフェ欲を抑えつけることができた。    予定日まで一ヶ月。暖かくなったけれど、まだダウンジャケットは手放せない。  美咲のつわりは思ったよりも長引いていて、吐くことは少なくなったが偏食は続いている。甘いものがとにかくダメで、トマトと豆腐、脂身の少ないお肉などなら大丈夫。いつの間にか、我が家はアスリートのような食生活に変わった。太り気味を気にしていた僕のお腹も、少しスッキリしたようだ。  美咲の顔色は、妊娠したての頃に比べたらぐんと良くなった。小柄な体に、怖いくらい大きなお腹。あと少しで子どもが産まれてくると思うと、胸の中でワクワクとざわざわが入り交じった不思議な気持ちになる。  美咲は、出産二週間前に休暇を取り、静岡の実家に帰ることになった。美咲のお腹は今にも破裂しそうなくらいに膨れ上がっていて、飛び出そうと空に向かっている。  週末、美咲の両親がミニバンで僕らの住むマンションまで迎えに来てくれた。  お義母さんは、小さな部隊を率いるリーダーみたいに張り切っていた。お義父さんや僕に荷物を運ぶ指示を出したり、足りないものをチェックして買い物リストにメモ書きしたり、僕のために作ってくれたお惣菜を冷蔵庫に詰め込んだりしている。  あっという間に、荷物と美咲を詰め込んで出発の準備を終わらせた。運転席のウインドウが下がる。 「ひとりになれるのも最後なんだから、少しは楽しんだら」と助手席からお義母さんが僕をからかう。やめてよ、そういうこと言うの、という困った顔をした美咲は、すばやく笑顔に切り替えると、後ろの席から小さく手を振った。
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