パフェのある構図

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 ひとり暮らしを楽しむ時間は、あまりなかった。  子どもが産まれても、しばらくこのマンションで暮らすつもりなので、その準備に取り掛かった。  寝室にはベビーベットと収納ワゴンを組み立てて、密かに買ったベッドメリーを取り付けた。木製で、フェルトでできた星や球体がぶら下がった北欧テイストのやつだ。インスタで見つけた。  リビングには昼寝スペースを作るため、雑誌や小物をクローゼットにしまったり、パズルマットを敷いたりもした。仕事から帰ると、まだ何かやることがあるんじゃないかと部屋中をうろうろ歩き回った。  この頃になると、僕のインスタの画面は子育てママの投稿で埋め尽くされていた。お世話グッズや子ども服、お子様グルメ、あるあるネタ……。  その中で、時折顔を出す美味しそうなパフェの画像が、僕を誘う。  そうだ、そうだ。パフェくらい食べてもいいじゃないか。この数日間、赤ちゃんを迎えるためにやれることだけはやった。飲みに行ってもいなし、ましてや女の子と遊びに行ったわけでもない。まあ、そんな子などいないからだけど。    残業続きで、なかなかフルーツパーラーナガノの営業時間までに片付かなかった。  仕事が落ち着いたのは、予定日の夜だった。  そこで、ようやく苺パフェにありつけたわけだ。  僕は夢中でたべた。ほとばしる苺の果汁と甘酸っぱい香り、苺シャーベットの爽やかな甘さに、ミルククリームのなめらかな舌触り。そして、約一年という断パフェ期間、少しの罪悪感。全ての要素が、この一杯に凝縮されている。まさに、パーフェクト!  苺パフェの美味しさが胃に流れ込み、身体中に沁み渡り、やがて背中のあたりから蒸気となってすうっと抜けてゆく。食べ終わった空のパフェグラスを見つめながら、しみじみと感動に浸っていた。  その時、突然スマホが震えた。
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