パフェのある構図

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 おっ来た、来た、来たぁ! 一年ぶりの苺パフェ。  苺の紅色とクリームの乳白色だけで構成されたシンプルな立ち姿。素顔で勝負する女優さんみたいに美しく、いさぎよい。  パフェはフルーツを美味しく食べてもらうためのデザートだという、老舗店のプライドと果実愛が強く感じられる。  写真を撮る。  苺のふくらみとツヤがきれいに見えるよう、正面から少し上のアングルがベストだ。縦長のパフェを真ん中に、テーブルの水平をきちんと合わせシャッターボタンを押す。  うん、完璧な構図だ。  この写真はあくまで保存するだけ。間違ってインスタに上げれば、ひとりでパフェを食べたことが美咲にばれてしまうから。  姿勢を正し、右手でスプーンを構え、左手で苺をつまむ。これは、あまおうに違いない。  まずは、苺を一口……。チュッパッ!  その瞬間、甘みと程よい酸味が口いっぱいに広がり、苺の新鮮な旨味が柔らかい電気のようにかけめぐる。アゴの筋肉がきゅんと引き締まり、全身がわずかにしびれている。  続けて、苺シャーベットとミルククリームをスプーンですくい、口にはこぶ。 「ふぅ、ふはぁ〜」  天然温泉に浸かった時のような、大きなため息がこぼれる。  ああ、なんて美味しいんだろう。これほど幸せを感じる食べ物が、世の中にあるだろうか? 幸せと書いて、苺パフェと呼びたい。  ストレスや不安を感じている人がいるとしたら、まず最初にやるべきことは、誰かに相談することじゃない! 苺パフェを食べることだ。  今日のパフェは、格別に美味しい。美咲に内緒で食べているという罪悪感もあるからか、余計に美味しく感じるのかもしれない。
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