癒しのウサギは財布を緩める

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 ウサギが家中を跳ね回る。  卯年ということで国民全員にウサギが配られたのだ。  感染症がまん延する中、マスク、図書券、10万円、米など様々なものが配られてきたが、今回ほど驚いたものはない。  国民のすさむ心を癒すためというが、迷惑に思う人もたくさんいたに違いない。  ウサギが嫌いな人はいないなど政府の考えの甘さにめまいがした。  政治家も感染症対策に疲れ切っていて癒しが欲しかったのかもしれない。  これがもし寅年やら丑年だったらどうしていたのかという記者の質問に  寅ならトラネコ、丑ならウミウシが候補だと真面目な顔をして首相は言った。  ほかの年もいろいろ考えているらしく、辰はタツノオトシゴ、亥は子豚、巳はヘビイチゴ、猿はサルスベリ、午は馬券、未は羊毛とか言っている。  馬券などはそれきっかけにギャンブルにはまり込む人も出そうで怖い。  そもそも未成年にも配られるというのに馬券はあり得ない。  4人家族の我が家に届いたウサギは4匹とも種類が違う。  国民全員分の同じ種類のウサギをそろえるのは世界中から輸入しても不可能だったようだ。  誰のウサギと書かれずに送られてきたので、家族でどの子の面倒を見るか熾烈な争いが繰り広げられるかと思ったが、それぞれ好みが分かれてあっさり飼い主は決まった。  それぞれ何となく本人に似ているから面白い。  筋肉ムキムキの夫は10キロ越えの大きなウサギ、おしゃれに夢中でロングヘア-の長女は毛の長いウサギ、趣味に夢中で人の話が聞けない次女はたれ耳ウサギ、家族で一番立場の弱い私が手のひらにすっぽり収まる小さなウサギだ。  何の準備もしていないところにウサギが送られてきたのでカゴを買ったり餌を準備したり大忙し、準備ができるまでにコンセントをかじられたり、布団をだめにされたりと大変だったが、やはりウサギの可愛さは格別で憎めない。  かなりの出費になったが家族の顔は明るかった。  お金を配ってもため込むだけ、ウサギなら消費を促せるというのが政府の本音かもしれない。  動物全般苦手だった私もいつの間にやらウサギに夢中だ。    国民はぶつぶつ言いながらもウサギを受け入れた。  もちろん次の年にタツノオトシゴは送られてきていない。  政府は最初から一年限りのつもりだったのだろう。  国民の批判を受けて中止が計画に盛り込まれていたに違いない。    流行っていた感染症も感染力が弱くなりようやく日常が戻ってきた。  感染症での政府のバラマキはウサギが最後になった。
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