春のユキ

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「落ち着いた?」 「はい、ごめんなさい」    中庭でその患者とペットボトルのお茶を飲む。  春佳よりも20センチ以上も高い身長の彼は、頭上でハハッと笑った。   「びっくりしたよ、突然泣き出すから」 「ちょっと落ち込んでて」 「新人看護師さんか」 「もう、私、看護師続けていくのは無理なんです」 「うーん、無理って言うのは簡単だけど。案外、どうにかなるものだよ」 「そうですか?」 「そうだよ。半年だっけ? 本当に無理なら、君はもう辞めてると思うから。ここまで続けてこられたのは、どうにかなったんだよ」 「すごい、前向き」 「そうなの、オレの長所」    彼がニッと笑みを浮かべるから、思わず、つられて笑ってしまった。  整然と整えられている彼の黒髪が、風に吹かれて自然に揺れ、爽やかな印象を受ける。   「やっぱり看護師さんは、笑顔の方がいいよ。オレたち患者にとっては元気になる」 「そうですよね。ご心配おかけしました」 「愚痴ならいつでも聞くよ」 「患者さんに愚痴はちょっと……」 「え? あんな泣き顔見せておいて?」  わざとらしく驚いて見せ、彼はくくっと笑う。   「ですね……」 「オレは雪之介(ゆきのすけ)。呼びにくいだろうからユキでいいよ」 「私は、佐藤、佐藤春佳です」 「春佳って呼んでいい?」    いきなりの呼び捨てに、どうしようかと思ったが、そう考えていることに気づいたのか、彼は再びケタケタと笑った。   「今、いきなり呼び捨てって思った?」 「あ、え、いや、あの」 「可愛い看護師さんとは仲良くしたいからさ。距離が縮まるでしょ?」    軽いなあ。  だけど、今の自分には、この彼の軽い明るさは救われる思いだった。
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