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それから、よくこの中庭で雪之介と話をするようになった。
入院中の食事が美味しくないという彼の言い分や春佳の内科の医者が怖くて苦手という話。
お互い愚痴やくだらない話題でうっぷんを吐き出していた。
「春佳といると楽しいな」
「私もユキさんと話すと楽しいです」
「だから、さん付けはしなくっていいって。敬語も。同じ歳じゃん」
雪之助は同じ22歳。だけど、見た目はもっと大人の雰囲気。
精悍な顔立ちを持っていて、彼の目は鋭く、常に何かを見つめているかのようで、どんな状況でも落ち着いている。
明るくて軽いと思っていたが、春佳の話をじっと目を見て真剣に聞いてくれるから、真面目で優しい人柄を感じた。
彼の言葉はいつも穏やかで優しく、聞いている人を安心させる。
「あ、そろそろ検査の時間だ」
左腕の腕時計を見て、雪之助が立ち上がった。
「私も、行かないと」
「頑張ってね」
手を振る彼を見送って、春佳は仕事に戻る。
彼のことは、『雪之介』という名前と22歳という同じ年ということしか知らなかった。
なぜ入院しているのかとか、入院する前は何をしていたとか。
聞きたいことはたくさんあったけど、なんとなく聞けずにいた。
彼、雪之介が拒んでいるように見えたから。
あまり深く追求されたくない――そんな雰囲気を感じる。
それでも春佳は、彼と話す時間は唯一穏やかになれる幸せなひととき。
この時間が終われば、仕事に追われ、あっという間に時間が過ぎていくのだから。
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