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「次が最後のチャンス……ここがダメならもう俺は……」
極度の緊張と恐怖、絶望感に苛まれながら俺は祈りにも悲鳴にも似た言葉を呟いていた。既に精神肉体共にボロボロだった俺はとにかく必死にこの街を彷徨い歩いてついに辿り着いた建物の前で唖然とその入り口を眺めている。
「早く中に入らなければ……」
そう頭で思っていても体が動かない、それは決して疲労からでは無かった。皮膚に冷たく張り付き体温を奪っていく恐怖。入口のガラス扉から透けて見える建物内に蠢く亡者共の姿。それが俺の足を地面に縫い付けていたのだ。
これまでにも多くの場所に足を運んだ。それのどれもこれもが既に亡者共に漁られた後で目的の物など影も形も無かった。すべて手遅れだった。しかし今回は違う、今まさに亡者共が群がっているのがまだ内部に俺の目的の物がある証拠だ。
狭い建物の中にあれだけの人数が密集しているとなると危険なのは間違いない。その危険を掻い潜らなければ目的は達成できないのも明らかでこうやって手をこまねいている時間など無い。そもそも長い事食べ物を口にしていない俺は何もしなければこのまま餓死する他ないのだ。
「……行くぞ!行くぞ!行くぞ! 必ず俺はアレを手に入れてこの苦しみから解放されるんだ!」
己に言い聞かせるように言葉を放ち、それと同時に足を踏み出した。固いコンクリートの地面を蹴って俺は勢いのままにガラス扉に詰め寄る。扉が開くとムワッとした重苦しい生暖かさが俺の体を飲み込もうとするばかりに覆いかぶさってきた。
「うおぉぉぉぉぉ」「うぉぉぉぉぉ」「おおおおおお」
亡者共の声が俺に出ていけと言わんばかりに押し寄せてくる。これしきの事で怯んでいる場合ではない。俺は室内に蠢く亡者と亡者の間に自分の体を滑り込ませて掻い潜るように前へ前へと進んでいく。亡者と体がぶつかり倒れそうになるも足を床に叩きつけるようにして必死に堪える。時には人間としての二足歩行を捨てて四足歩行で獣のように這いつくばってでも先へと進んでいく。
どれだけ頭の上を亡者の手が掠めただろう。どれだけ体に痣を作っただろう。そんな事はもう分かりようもないが、今一つ確かなことがある。それは俺が今まさに目的の物を手に掴んだ事だ。歓喜に震える事も今は敵だ。俺は体を翻し、目的の物を抱えたままにさながらアメリカンフットボールの選手のように亡者と亡者と間をすり抜けていく。
そしてついに俺は――声高らかに叫ぶ。
最後の――最後に残された1つの希望をその手に――
「超超超限定、極上特選卵プリン1つ!」
こうして俺は、コンビニ期間限定品のプリンを手に入れた。
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