2章 春

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2章 春

私達は病院の広場へ来ていた。 「うわっ…こんな大きな桜の木、 病院にあったんだ。」 「えへへ、知らなかったでしょ。」 「なんであんたが得意げなのよ…。」 自分の事のように嬉しそうにする少年を 見ながら得意げになってしまうくらい 綺麗な桜に見惚れていた。 「桜って私を見てって言ってるみたいに 自信満々に咲き誇るよね…。」 ふと呟いていた。私には無い自信。 自分の性格と真逆… 「そうだね、でも勇気もくれるよ。僕も胸張って 生きようって頑張ろうってなる。」 「…そういう考えも出来るね。」 普段の私だったら何それ。自信過剰だから 言えるじゃん。って皮肉を言ってしまうとこだが、 なぜか少年の言葉は素直に私の心に深く響いていた。 「僕ね、ずっと病室暮らしだったから… ピクニックをした事が無いんだ。」 「いつかこの桜の木の下でピクニックしたいなぁ…」 寂しそうに少年が呟く。 「私、お弁当作ってくるよ明日 そしたらここでピクニック出来る。」 そう口が勝手に動いていた。ピクニックなんて 賑やかな事が今は、嫌いなはずなのに… 「本当に!?いいの?」 嬉しいそうな笑顔を振りまく少年に、私は自然と 笑顔になっていた。久しぶりに笑えた気がする。 次の日ピクニック準備の為、朝早く起きた。 こんなに朝早く起きるのは何年振りだろうか。 「四季、こんなに朝早くどうしたの?」と 母が驚くくらいだから本当に久しぶりだ。 料理は昔から好きだった。今の生活に変わってから も続けていたけど、誰かに手料理を振る舞うのは 初めてかも…。 お手製サンドイッチとお母さんと一緒に作った 唐揚げを持って空の居る病院へと向かう。 向かう前、玄関で 「行ってらっしゃい。楽しんできてね」 と言うお母さんのとびきり笑顔な表情… お母さんの笑顔も久しぶりに見た気がして 少しだけ俯きがちな私の性格が前を向いた。 病院へ向かうバスの中から見た空の色も、 いつもより明るい色をしていて窓に映る、 私の表情も輝いていた。 「四季っ!!おはよう」 病院へ着くと笑顔で四季が待っていた。 誰かが待っててくれるってこんなに嬉しいのか… 空といると新しい私に出会える気がする。 明るくなれる。 桜の木の前にレジャーシートを引き、作ってきた お弁当を広げると四季の目が輝いた。 「美味しいか、わからないけど良かったら…」 「絶対美味しいに決まってる!!さっそく…」 空がサンドイッチをほおばる。一瞬、過去の記憶で 不安で心臓が苦しくなった…でも空の表情で その不安が消え去った。喜んでもらえた。 「美味し過ぎるよ、お店出せるレベルだ。」 「大袈裟だよ。でもありがとう。」 凄く嬉しかった。誰かに褒めて貰えるのは 久しぶりだった。昔は部活の仲間に作ったりして 楽しんでたなぁ…と学校にちゃんと行っていた 時代を思い出していたら…絵を描きたくなった。 部活動で美術部にいた頃はよく描いていたけど 自殺しようと考えていた少し前から描かなくなった。 「…ちょっと待てて貰える?」 「いいけど…どうしたの?」 突然思いつき、絵を描いてた時の画材を出す。 過去の嫌な記憶で、しばらく描けないでいたが 画材は、常に鞄の中に入れていた。 スケッチブックいっぱいに、ピクニックの様子 空のキラキラな笑顔を描いていく。楽しい。 描くことが好きだった事を忘れていた記憶が 戻っていく。 「四季、いい笑顔してるね」 「そうかな…」照れながら四季は答える。 まるで、自分の事のように嬉しそうにする空。 嬉しいそうに絵を描く四季。 それが春の出来事だった。
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