3章 夏

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3章 夏

セミが鳴り響く猛暑。太陽に似たキラキラ輝く笑顔で 「外出許可が出たんだ」と嬉しそうに話す空。 「…へぇ。」 「…何その反応。」 口を膨らましながら空は怒る。 でも仕方ない。こんな猛暑でしかも、 私はインドア派。暑い日は病院の涼しい クーラーの元、涼んでいたい。 「僕ね、海に行ったことがないんだ…」 寂しそうな顔で呟く。うっ…胸が締め付けられる。 空はずるい表情をする。こちら側を 困らせるような表情。 「…まさか、海に行くって言わないよね?。」 にこにこ笑顔で返す空。…これは無理っぽいな。 「…わかった。行こう。」 結局主導権は空にある。 笑顔で全部、解決してしまう。 海へ向かう電車の中でも、空は 子供のようにはしゃいでいて見ている私まで、 自然に笑顔になっていた。 「うわぁー、水面が輝いてる」 「夏は太陽の光もあるから余計に光ってるのかも」 嬉しそうに目を細めながら海を見つめる空。 春の桜を見た時のようにまた描きたい衝動が湧く。 「せっかくなら描くか。」 画材を用意して絵を描いている間も、水面に触ったり 砂で遊んでる空は自由で楽しそうで少し羨ましい。 「空は、景色の全てが輝いて見えてるんだね。」 気づいたら呟いていた。多分、少し 悲しそうな顔をしていた。 「四季は、これからきっと綺麗に見えてくるよ」 「人間関係は、汚い部分や嘘があるけど景色には 嘘がないからこそ、綺麗なんじゃないかな?」 その言葉を聞きながら、まるで空の 素直な表情みたいだと思った。 「…それに、僕はほら。あと何回この景色 見れるかわからないから。」 悲しそうな顔で呟く空を見たら 今言った言葉を後悔した。 「私は、来年も空と見に来るから。絶対。」 前を向きながら私は、力強く言った。初めて出来た 信頼出来る唯一の存在。手放したくない。 「…ありがとう。」 自信なさげに呟く空を見たら泣きそうで 私は、絵を描くのに集中しているかのように ずっと空の表情から目を逸らしていた。
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