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「ひーちゃん、おはよう。私ね、合格したよ!」
「あー、良かった。おめでとう! 私もね、今やっと発表を見てさ。私も合格だった」
「やったね! ひーちゃんおめでとう! アッキーさんにも報告した?」
「今メールしようと思ってたところ。澤村、今日学校行く?」
「ううん。私は電話で報告するつもりだけど。ひーちゃんが行くなら行こうか?」
「ああいや……観覧車……」
「観覧車?」
「観覧車乗りに行かない? あの、いや……」
「ひーちゃん?」
「さ、澤村に……会いたい……から」
「あ……うん。わかった。私も会いたかった……。じゃあ遊園地の最寄駅で待ち合わせしよう。私服でいいからね」
すごく照れちゃった。ひーちゃんから会いたいなんて言われちゃったから。本当、電話で良かったよ。だって私の今の顔、真っ赤だよ。好きな人から会いたいなんて言われて、顔色も変わらないっていう人に会ってみたいよ。どういう感情を持ってるのか知りたい。
♪♪♪
第一志望の大学に合格した。本当に嬉しかった。嬉しすぎて、実は一人で泣いたんだ。一時はどうなることかと自分でも不安だったけど、合格出来てよかった。
安心したら、澤村に会いたくなった。そう思ってたら、ちょうど澤村の方から連絡をくれた。澤村も第一志望に合格したらしい。二人でお祝いがしたいな。っていうか、ただ会いたくて、頑張って澤村を遊園地に誘った。
学校がある場所から二駅ぐらい先のところに、遊園地があるんだ。そこで、観覧車だけでも乗れればと思った。
久々に会った澤村は本当に可愛かった。改札で待っていた私に気づいて、笑顔で走ってきた。まるで犬みたいだな。そのまま私に抱きついてきたところまで、犬そのものだ。
「澤村、おめでとう。頑張ったね」
「うん。ひーちゃんのおかげで頑張れたんだよ。ありがとう。ひーちゃんも受かって良かったね、おめでとう」
「ありがとう。私も澤村がいてくれたから頑張れた」
人目もはばからず抱き合って喜びを分かち合っていた。
〜〜〜
奈緒が四月から通う大学は、御茶ノ水にある有名大学だった。
「へー、すごいね。よくテレビとかに出てる教授もいるし、その先生に習えたらいいね」
響は楽器を買うのによく御茶ノ水に行くことがあるという。それに、響が合格した大学も、この遊園地の近くだということだった。
「あれ、もしかしてひーちゃん、シノジョの近くの大学? すごい! 名門校じゃん! さすがだね」
高校の近くにある大学に合格した響は、引き続き同じ通学路で通うことになる。
「じゃあ授業が終わったら会えるかもね。この遊園地が中間地点じゃん」
「うん。それに私も御茶ノ水行くからさ。澤村、美味しいご飯屋さん見つけといてよ」
そんなことを話しながら、遊園地に入った。
チケットを購入して、乗り場で待つ。待っている間も手を繋いで話している。二人の世界に入っているから、待ち時間もあっという間だ。
観覧車に乗る順番になったので、二人で乗り込む。
「あー、今日は良い天気だね。この中は暑いぐらいだ」
「本当だね。私この観覧車初めて乗ったけど、案外広いんだね」
「そうだね。ねえ、澤村」
「ん?」
「てっぺんまで行ったら、キスする?」
「そりゃもちろんするでしょ……って、ひーちゃん何を言い出すの。びっくりした」
「でも、即答だったね。……そっち行ってもいい?」
響は、戸惑う奈緒の隣に移動して、奈緒の腰に手を回した。そのまま奈緒の顔を見つめる。
奈緒は恥ずかしそうに、体を響に預けるようにして寄り添った。
「澤村、好きだよ」
響はそう言って、奈緒の顔に手を添えてキスをした。奈緒も、響の首に抱きつきキスを返す。
そしてしばらくギュッと抱き合っていた。
〜〜〜
幸せの時間を過ごした二人。繋いでいた手をなかなか離すことが出来ない。
「次に会うのは、卒業式かな」
「そうだね。……ねえ、ひーちゃん。卒業式の日、家に泊まりに来て欲しいんだけど……」
「卒業式終わってから? 私は構わないけど、澤村は家族で過ごすんじゃないの?」
「ひーちゃんとずっといたい……」
「……わかった。今日帰ったら父さんに言っとくね」
「うん」
響はようやく繋いでいた手を離して、奈緒の頭を撫でた。
そして駅の改札に入り、お互いに手を振ってそれぞれ帰路に着いた。
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