卒業式、そして……

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卒業式、そして……

 「「瀬戸ちゃん、かわいいー」」  卒業式の日、C組の担任の瀬戸先生は、袴姿で教室に入った。思いがけない姿だったので、クラスの生徒たちは次々に先生に声をかける。  「はい、みなさん卒業おめでとうございます。これからいよいよ卒業式です。リハーサル通りに起立と着席をしっかりしてくださいね。……はあ、私はもうすでに泣きそうなんだけど。……私が一番頑張らなきゃいけないみたいね」  先生が涙を堪えながら話をしているのを見て、もらい泣きしている生徒もいた。  「先生めちゃくちゃ可愛くてやばいんだけど」  「ひーちゃん、ダメだよ。私のことだけ見てて」  これは響と奈緒の会話。瀬戸先生の袴姿と今にも泣き出しそうな表情に、心を持っていかれそうになっている響を慌てて奈緒が引き戻している。  卒業式前にもかかわらず、緊張感のない二人である。  体育館で行われる卒業式。平日なので、響の父親の弦を始め、仕事をしている保護者は来られないが、やはり母親の出席率は高かった。奈緒の母も出席していた。  「三年C組。秋山響」  「はい」  卒業証書の授与。出席番号一番の響は、瀬戸先生に一番最初に呼ばれる。大きな声で返事をして、ちらっと瀬戸先生の方を見るともうすでに泣き始めており、後の生徒たちの名前を呼ぶのが大変そうだった。またそれが涙を誘い、卒業式らしい雰囲気で進んでいった。  「響が瀬戸ちゃん泣かせたんだよ。ホントに罪な女だね」  卒業証書を受け取って席に着いて、クラスメイトの様子を見ていた響は、隣に座っているクラスメイトに冗談混じりに話しかけられた。  「そんなことないよ。先生涙もろいんだよ」  コミュ障の自分がクラスメイトと打ち解けている姿を見て、込み上げて来たのなら仕方ない。自分のせいかもしれない。でも今日は最初から泣いてるし、ただ涙もろいだけだと思っている響だった。  やっぱり先生は可愛いな。それからずっと瀬戸先生の方ばかり見ていた響。  「ひーちゃん、ずっと瀬戸ちゃんのこと見てたでしょ」  後で奈緒にまた怒られていた。 〜〜〜  卒業式が終わって、教室に戻ってきた生徒たち。  卒業アルバムが配布される。みんなでクラスのページを見て、出来栄えに感心していた。他のクラスのページと比べても、ダントツに良かった。  奈緒と響が頑張って作った甲斐があり、このクラスで良かったとみんなが言ってくれた。  「……さて、これから皆さんは、それぞれの道を歩いていきます。行きたい大学に行けた人、行けなかった人、もう一年頑張って勉強する人。このクラスでも、本当に様々な道に進みます。ですが、ここで出会った皆さんは、一生の友達です。最高の仲間たちに出会ったのですから、これから先も何かあったら仲間を頼ってください。もちろん、先生もずっとここにいますから、いつでも遊びに来てくださいね……」  担任の瀬戸先生は、最後に沢山話したいことが出てきたのか、なかなか話が終わらなかった。でも、どれも心打たれる話が多く、生徒たちも飽きることなく先生の話に耳を傾けていた。
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