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最後のホームルームを終えて、解散となった。名残惜しい生徒たちは、友達や先生と写真を撮ったり、卒業アルバムの裏表紙にメッセージを書き合ったりしていた。
奈緒や響も、同じようにして過ごしていた。瀬戸先生と一緒に写真が撮れて、メッセージも書いてもらって満足気な響。もちろん響と写真を撮りたかったり、メッセージを書いて欲しいクラスメイトは沢山いる。他のクラスの生徒も合わせたら、かなりの人数が集まっていた。
「澤村、写真撮って。もう集合写真にするわ」
面倒くさくなって、全員と一度に写真を撮ることにした。問題はメッセージだ。サイン会のように、響の前には列が出来ていた。
それだけ響は人気者だったのだ。
「澤村、私のアルバムにメッセージ書いといてよ。私も後で書くから」
響を待っている間、奈緒は響のアルバムを開く。もうすでに沢山のメッセージで埋まっている。瀬戸先生のメッセージもあった。そして、響の方を見ると、いつ終わるかわからないぐらい続いている長い行列。
奈緒は次第に不機嫌になった。ヤキモチなのかもしれない。自分でもこんなことでイライラしたくないのに、怒りが収まらない。
『ひーちゃん、ずっと私だけのひーちゃんでいてね。大好きだよ 奈緒』
深呼吸をして気持ちを落ち着けた後、やっと見つけた隙間に、奈緒はこんなメッセージを書いた。
そんな奈緒も、もともと友達が多いので、この時間を一人で過ごしているわけではなかった。友達と別れを惜しみながら喋ったり、写真を撮っていたのだ。
「人気者同士のカップルだと大変だね。響は大学入ってもモテそうだもんね。奈緒も気をつけないと」
「多分ひーちゃん、大学入ったら友達作らないよ。また元に戻るんじゃないかな」
「そうは言っても、声かけられちゃったらさー。響は優しいから何か返すじゃん。今みたいに」
「バイト始めたら大変じゃない? それこそいろんな人に会うわけだから……ねえ」
「もうみんな、ひーちゃんが浮気する前提じゃないのよー」
「でも大丈夫なんでしょ?」
「大丈夫に決まってるでしょ!」
「澤村、ごめん。帰ろう」
ようやく終わった響が、奈緒のところに戻ってきた。
「ひーちゃん一旦自分の家に帰るでしょ? 私もついて行くよ」
「あー、そうしてくれると嬉しいな」
響の言葉に顔を赤らめる奈緒。その様子を見て友人たちは奈緒を冷やかす。
教室を見回りに来た先生に注意されて、ようやく帰ることが出来た。この教室とも友人たちとも、ここでお別れだ。
〜〜〜
響と一緒に帰宅した奈緒。母親に響を紹介して、響は挨拶をする。
「あなたがひーちゃんね。会いたかったわ。もう奈緒がずっとひーちゃんひーちゃんって言ってたから」
「ママやめてよ、恥ずかしい」
そんな話をしながら、奈緒の父親の帰宅を待ち、夕飯を一緒に食べた。
父「ひーちゃんは、これからもバンドをやっていくのかい?」
響「はい。出来る限りはやりたいですが、私が大学を卒業したら、もうやらないかもしれません」
母「あら、そうなの? そうね、勤め出したら忙しくて練習出来ないかもしれないわよね」
母「ところで奈緒がずっとひーちゃんのこと追いかけてたでしょ? 勉強の邪魔にならなかった?」
奈緒「ちょっと、ママ……」
響「あ、いえ。三年生になってから澤村……奈緒さんと一緒にいる機会が増えたんですけど、不思議とそれが嫌じゃなくて……。さわ……奈緒さんのおかげでクラスにも馴染めましたし、感謝してます」
奈緒は照れて、響の太ももをパンっと軽く叩いた。
父「奈緒のその執念深さには感心するんだよな。何かに活かせればいいんだけど」
響「あの、ちょっと話は変わるんですが、今度バンド仲間とその家族とかでスキーに行くんです。バス貸切で。人数が多い方がいいと言われているんですが、さ……奈緒さんを誘ってもよろしいでしょうか」
母「あらいいじゃない。スキーなんて。私たちも若い頃はよく行ったわよね。お父さん」
父「あの頃は流行ってたからね。ド派手なウエア着てな。奈緒が良ければ行ってくればいい」
奈緒「私、スキーなんてやったことない……。だけど行ってみたい!」
楽しい食事の時間は終わり、それぞれが自室へ。
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