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紬青年が行ってしまうと光流さんは緊張を解いたのか、気が緩んだのがわかる。やはり知らない人と接するのは疲れたのだろう。
一応、視診をしてみるが特に変化はなさそうだった。
目的を達成してそれぞれが帰り支度を始める。サロンと違い他校の学食だ、あまり長居をするものでもない。
「よろしければお受け取りください」
永井さんにお礼をお渡しする。
金品でのお礼はおかしいので最近流行りのクッキーの詰め合わせを用意しておいたのだ。と言っても用意しておいてくれたのは私のパートナーなのだけど。
光流さんとも面識があるため今回のことを相談すると〈会えた時のために〉と取り寄せておいてくれたらしい。こう言った細かい配慮は苦手なので正直ありがたい。
と言うか、うちのパートナーも光流さんの事が大好きなのだ。
本当に人タラシだ。
「あ、これ知ってる!
ありがとうございます!!」
永井さんの反応に手応えを感じて嬉しくなる。今回、1番の功労者なのは彼女だ。喜んでもらえたのならば幸いである。
「じゃあ、またサロンで」
挨拶を交わしそれぞれの方向へ歩き出す。
永井さんはまだ学内に用事があるようだったので私達は駐車場に向かう。
「光流、嬉しそうだね」
歩きながら賢志さんが話を始めたため私も便乗する。
「何の話をしてたんですか?」
急に聞かれて驚いたのか、少し戸惑ったような表情を見せるものの少し考えてから光流さんが話し出した。
「色の話。染料のこと教えてもらった。
何で染めるとか?
あとフィールドワークのことも聞いたよ」
こっそり聞いていた内容をそのまま教えてくれる。聞いていた内容だったけれど、今更ながら光流さんがあんなにも長く初対面の相手と、しかも2人きりで話していたことは本当に驚きだ。
賢志さんがどんな思いで見ていたのかが気になるところだ。
「珍しいね。
ストール見たいって言った時もだけど。
そう言えば光流は何譲ってもらったの?」
やはり賢志さんも意外に思っていたようだ。
「自分の分はトートバッグと同じ色のストール。
あと、〈茜色〉って言うらしいけど紅葉色のストールは楓さんに」
そう言ってバックの中からチラリと見せてくれる。
「安形さんはお土産?」
「はい。日頃の感謝を込めて」
光流さんの言葉を理解してそれに相応しいであろう答えを返す。最近は短い言葉だけで意思の疎通が出来るようになったのだ。
「静兄、僻むよ?」
「静流君が欲しがった時用にちゃんと買っておいたし」
賢志さんの言葉に他のストールもチラリと見せてくれる。
「何本買ったの?」
と呆れられているけれど、それはきっと光流さんの執着の表れなのだろう。
その後も楽しそうに話していたせいか、車に戻るとすぐにうとうとし出したようで「寝てていいよ」と賢志さんが言ったのが聞こえた。
ストレスから来るヒートかも知れないと心配になるけれど、賢志さんの言葉を聞いてもなんとか目を開けようとする様子から本当に眠いのだと判断する。静流さんからは、ストレスからヒートが起こった時には眠りに抗おうとする気力も無く眠ってしまうと聞いていたから、今の状況とは明らかに違う。
「安形さんはどう思いました?」
光流さんがしっかり眠ったのを確認したのだろう。しばらくしてから賢志さんが小声で聞いてくる。
「悪くないですね」
正直に答える。
「今日の様子を見る限り、今後もお付き合いを続けても大丈夫だとは思います」
「それは…どう言った意味のお付き合い?」
「光流さん次第ですよね。
お友達としてなら今日の様子で及第点です」
「その先は?」
「どうですかね…。
あちらは気になっている感じでしたけどね」
小声での話が続く。
賢志さんも手応えとしては悪くなかったようだ。
「連絡先、渡したの気付きました?」
「もちろん」
賢志さんの言葉に思わず力強く返事をしてしまう。慌ててミラー越しに光流さんを確認するが、大丈夫そうだ。
「ところで賢志さんも紬さんと何か話してましたよね」
気になっていたのでこの際聞いておく。
「それも気づいてましたか?」
「もちろん」
似たようなやり取りが繰り返される。
「光流とは関係ない話ですよ。
進路相談、みたいな?
身近に院まで行ってる人がいないから聞いてみたいことがあって…」
彼にしては少し歯切れが悪い。
賢志さんには賢志さんの都合があるのだ。本人が話したくないならあまり突っ込まない方がいい。
「そうなんですね。知りたいことは聞けましたか?」
「とりあえず、今は彼女いないみたいですよ」
盛大に誤魔化された…。
少し悔しいが、今日は誤魔化されたふりをしておこう。
その後、2人を家まで送り届けて仕事に戻る。静流さんも滞りなく予定をこなしたようだ。
「どうだった?」
「悪くないです」
「ん。ありがとう」
本当は色々と聞きたいことがあるのだろうけれど、公私混同はここまでの様だ。
私も頭を切り替え、スケジュールの確認を始めた。
※attention※
安形さん、イメージ的には米倉涼子さんです。
天海祐希さんだとちょっとお姉さん過ぎかな…。
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