僕の友達

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 メッセージで説明を送るのは難しい。  あまり長文を送るものではないと分かっていてもどうしても長文になってしまうのだ…。  電話で話すことができれば早いのだけれどあちらには赤ちゃんもいるし、時差もある。  なので都合のいい時に返信すればいいメッセージを使うことになるのだけれど、送る文章に悩んでしまう。  作品を知った経緯。  作者を紹介してもらったこと。  作者と話をして興味を持ったこと。  IDを教えてもらいメッセージで連絡を取り合っていること。  書いてみると案外簡単で拍子抜けした。  あれ…? 〈普通〉の基準はわからないけれど、文章にしてしまえばごく普通の事の様に思えてくる。  あの時の僕の気持ちを省いてしまうとこんなにも普通の事なのかと驚いてしまう。  作品を初めて見た時の気持ち。  執着と焦燥感。  会える事になった時の喜び。  会ってみて、作品を見て、そして話をして彼に惹かれたこと。  IDを教えてもらい、連絡を取るまでの葛藤。  文章だけでは伝わらない〈何か〉が確かにあるのだ。その事は、どうやったら胡桃に伝えることができるのだろう。  胡桃には聞いてもらいたいし、知ってもらいたい。アドバイスを貰いたい。ただ、彼女はもうお母さんだ。以前の様に僕を庇護してくれる〈お姉さん〉ではない。〈少し淋しい〉と思ってしまいながら、そんな風に感じる自分に驚く。  今まで人は人、自分は自分と割り切っていたつもりだったけれど、僕は案外甘えたなのだろうか?!  しばらく胡桃から返信が来ることはないだろうとスマホを置く。  やることがなくなってしまった…。  大学は今、長い春休みだ。  試験は無事に終わり、新学期が始まるまで約2ヶ月。賢志は彼女さんとしっかり話をするためにと春休みに入ってすぐに実家に帰った。 「どんな話し合いになるのか不安だけど、このまますれ違ったままだと絶対に良くないから」と、何か覚悟を決めたようだ。  おかげで僕は毎日暇をしている。  賢志が来る前は長期休みを1人で過ごすのは普通の事だったのに、きっと恵まれた環境に慣れてしまったのだろう。  4年になると講義も更に減り、就職活動や卒論に向けて準備を始めるけれど、僕の場合は就活がないので時間に余裕があって余計に暇を持て余してしまう。  ショッピングアプリでの検索にも慣れ、結局注文は静流君にお願いしている。賢志の予想通り、静流君はいくつかのショッピングアプリで会員登録していてそのほうが手っ取り早かったのだ。 「欲しいものあったらメッセージに貼っておきな。注文しておくから」  と言われ〈貼る〉の意味がわからず賢志に一から教えてもらい、欲しいものもすぐに注文してもらえる様にもなった。  僕だって少しは成長しているのだ。
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