私の大切な…。〈胡桃side〉

1/1
前へ
/157ページ
次へ

私の大切な…。〈胡桃side〉

〈光流の相手について詳細求む〉  光流とのやり取りの直後に挨拶もなしにメッセージを送った。  私は怒っているのだ。  送り先は光流の従兄弟の賢志君。  こんなにも嬉しいことを共有してくれないなんて、と淋しかったのだ。  光流を大切に思う気持ちは同じだと思っていたのに…。 〈光流から聞いた?〉  すぐに返ってくる賢志からのメッセージ。 〈聞いた〉 〈不機嫌?〉 〈もちろん〉 〈ごめんね。  でもね、胡桃ちゃんには自分から伝えさせたかったから〉  その一言で賢志君の想いに気付いてしまった。そして安易に怒ってしまった自分が少し恥ずかしくなる。  少しだけね。 〈それなら仕方ないけど。  仲間はずれみたいで淋しかった。  私だって、協力したい〉 〈わかってる。  でも、そうやって自分から伝える相手は胡桃ちゃんだけなんだよ〉  そんな風に言われたら何も言えなくなってしまう。 〈どこまで聞いた?〉 〈作品のこと。  会ったこと。  メッセージのやり取りをしていること〉 〈大丈夫、それでほとんど全部〉 〈ほとんど?〉 〈光流はまだ気付いてないみたいだけど、多分αだと思う〉 〈大丈夫なの?〉 〈安形さんから静兄に話は行ってるはずだけど何も言われてない〉 〈向こうは光流のこと知ってるの?〉 〈どうだろう。  でも少し調べればわかるからね、光流の場合は〉  予想外の答えに驚いてしまった。 〈何で光流は気付かなかったの?〉 〈抑制剤飲んでた。  前日と当日2回。  静兄、神経質になってるから〉  以前〈運命の番〉とニアミスしたせいだろう。  気持ちはわかるけど、光流の出会いを潰しているのではないのかと少しモヤモヤする。  心配する気持ちはわかるけれど、ちょっと度を越している。 〈どんな人?〉 〈穏やかな人?  自分もちょっと聞きたいことがあって話をさせてもらったけど、真面目な人〉 〈合うと思う?〉 〈良いと思うよ〉 〈具体的にプロフィール〉 〈美大の院生。  年は静兄と同じ、多分。  フィールドワークに出てばかりでなかなか捕まらない。  でもパートナーが出来たらできるだけ連絡は取り合いたいタイプ〉 〈具体的過ぎない?〉 〈本人から聞いた〉 〈今、その人にパートナーは?〉 〈いないって言ってた〉 〈何の話からそうなるの?〉 〈色々。  まぁ、パートナーの話は副産物だと思っておいて〉  よくわからないけれど、言いたくなさそうなので聞かないでおく。 〈私は何をすれば光流のためになる?〉 〈メッセージ来たら話聞いてあげて。  電話は遠慮してるからメッセージでいいと思う。  自分からなかなから言わないけど、胡桃ちゃんになら色々と話せると思うから〉 〈わかった〉 〈すぐに教えられなくてごめんね〉 〈もう良いよ。  春休みは彼と会わないの?〉 〈どうだろう?  まだフィールドワーク中なのかな?  光流からは何も聞いてないよ。  今、自分は帰省してるし〉 〈そうだったんだ。  何も考えずにメッセージ送ってごめんなさい〉 〈それは大丈夫〉 〈しばらくは実家?〉 〈そうだね〉 〈光流、ひとりだよね〉 〈それだけが心配〉 〈兄さんに連絡しても大丈夫かな?〉 〈喜ぶと思うよ〉 〈じゃあ、連絡しておく。  帰省中にごめんね〉 〈こっちこそ、教えなくてごめんね。  次からは何かあったら連絡するよ〉 〈よろしく〉  状況は何となく読めた。  近くにいない私に出来る事は、メッセージが来た時に話を聞くことくらいだろう。  あとは、兄さんに連絡を取ること。  同じ男性Ωの兄さんにしか話せないことも、きっとあるはずだ。  時計を見て時間を確認する。  電話をしたいけれど、この時間はまだ兄も仕事中だろう。とりあえずメッセージを送っておく事にする。    指先に想いを込めて。  光流の恋がうまくいきますように、と願いながら。
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1064人が本棚に入れています
本棚に追加