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初めての…。
初めて自分からメッセージを送ってみた。
胡桃に贈りたかったんだ。
紬さんの作品に触れて欲しかった。
紬さんの作品を全て自分のものにしたいという執着は相変わらず有るものの、それ以上に胡桃には贈りたいと思った。
ストールはガーゼで柔らかいため、赤ちゃんの冷房対策にも使えるだろう。
トートバッグはマザーズバッグに良さそうだ。
想像したら止まらなくなってしまい、どうしても欲しくなってしまった。
そうやって自分に対する言い訳を作った。
〈こんばんは〉
気付けばメッセージを送っていた。
何をどう伝えようか考える前に送ってしまったメッセージ。
こちらからメッセージを送るのは初めての事で、変に思われないかと送ってから不安になってしまう。
どうしよう、送信を取り消そうか。
迷っているうちに既読がついてしまう。
〈こんばんは。
珍しいね〉
すぐに返ってくるメッセージ。
でも〈珍しい〉の一言に浮かれていた気持ちが沈んでしまった。
迷惑だったのかもしれない。泣きたくなってしまう…。
〈ごめんなさい〉
そう送るので精一杯だった。
慣れない事はするものじゃない。
〈謝らないで。
嬉しくて〉
僕の謝罪の後にすぐに送られてきたメッセージ。〈嬉しい〉とか、気を使わせてしまった…。
どうしよう、何と返せば良いのだろう。
こんな事なら紬さんからメッセージが来るのを待ってればよかった。
何と返せば良いのか全く思い浮かばず時間だけが過ぎていく。
その時間はきっと数十秒。長くても1~2分だったはずだ。
〈電話って、出来る?〉
想定外のメッセージに思考が止まる
電話?!
もともと電話はあまり得意ではない。
相手と距離の近さを感じられるのは嬉しいけれど、まず相手の都合が気になる。
今は電話をしていて大丈夫なのか。
いつまで話していられるのか。
通話の終わりはどちらから言い出せば良いのか。
どうしたらいいのか分からないことばかりで苦手なのだ。
紬さんの画面では既読となっているはずのメッセージ。既読スルーするわけにはいかない。
僕だって紬さんと話がしたい。
声が聞きたい。
もっと近くに感じたい。
〈大丈夫です〉
気付くとそう送っていた。
直後に呼び出し音が鳴る。
紬さんも話をしたいと思ってくれていたのだろうか?
もしそうなら…嬉しい。
数回の呼び出し音を聞き、通話アイコンを押してからスピーカーモードにする。自室にいるから人に聞かれる心配はない。
『もしもし?』
スピーカーから流れる紬さんの声。
少し低めの優しい声。
ゆっくりと話すその声にほっとする。
声色を聞く限りではマイナスな感情は感じない。
「こんばんは」
返事を返すが心臓はドキドキとうるさい。
この音が聞こえてしまうのではないかと心配になる。
『こんばんは。
出てくれてありがとう』
笑みを含んだような穏やかな声色。
好きだな…。
無意識にそんな風に考えてしまい慌てる。
決して伝えてはいけない、とまでは思わないけれど、それでも持て余している僕の気持ち。
無言のままではいけないと思い、短く返事をする。この先の続け方が分からない。
『何かあった?』
聞こえてくる穏やかな声。
僕の返事を辛抱強く待ってくれている。
「えっと、図々しいお願いがあって…」
何とか絞り出した言葉。
上手く伝えられるだろうか?
『お願い?』
「はい。
紬さんの作品を、また譲ってもらえませんか?」
勇気を出して言ってみる。
ダメだと言われたら諦めるしかないのだけど、言わずに諦めたくなかった。
『いいよ。
ストール?
トートバッグ?』
すぐに返ってくる返事。
即答?!
「できればセットで。
友達に贈りたくて」
図々しくも答えてしまった。
だって、胡桃に贈りたかったから。
そして伝える胡桃の事。
今は日本にいないけれど、1番の友達で、紬さんの作品の話をしたら興味を持ってくれた事。
写真を送ったらいたく気に入った様子だったので贈りたいと思ったこと。
実は前の時に譲ってもらった〈茜色〉のストールは彼女の兄である楓さんに贈りたいと思っていること。
楓さんにだけ贈ったと知ったら胡桃に怒られるだろうと思い、図々しいと思いながらもお願いしてしまったこと。
そして、1番伝えたい想い。
「自分が好きなものを気に入ってもらえるって、嬉しくて」
伝えたかった想い。
僕は紬さんの作品に、紬さんにこんなにも焦がれている。
『そんな風に言ってくれてありがとう。
いくつか用意するよ。
色の希望とか、有る?』
優しい声で告げられる言葉。
その声色に安心して胡桃のイメージを伝える。
「彼女のイメージ的には淡いピンクなんです」
『お兄さんには茜色だったよね?
なら、茜で薄く染めたのがあったはず。
前の茜色と違って桜に近いピンクだけど、どう?』
「良いと思います!」
その提案が嬉しくて、食い気味の返事になってしまった。
同じ染料で染めたのに違う色のお揃いなんて素敵すぎる。
そして何よりも僕の言葉を聞いて提案してくれたことが嬉しかった。
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