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ブラコンなのですが…。〈静流side〉
〈静流君にお願いがあるので明日の朝食の時に時間をください〉
その日の仕事を終え、帰宅する車の中で受け取ったメッセージは弟からのものだった。
最愛の弟。
お願いと言われればなんでも聞いてしまいたくなるほど溺愛している自覚はある。
ただ、今の光流からされるお願い事といえば、きっと〈彼〉に関係することだろう。
素直に聞いてやることができるだろうか…。
紬 結斗。
オレと同い年で美大の大学院生。
美大の院生だけど何かの賞を取っているわけでもなく、助教や教授を目指しているわけでもなさそうな彼。
どこの坊々かと思い調べたらやはりそれなりの家庭で育っており、好きな事を好きにさせてもらえるほどには余裕もあるようで、家族間の確執があるようでもない。
ただ、完全に家は出ているようで卒業後も戻るつもりはないらしい。
らしいと言うのは彼がそれらしい事を言っていたという話があるだけで、言質を取ったわけではない。
ただ、染色家としての賞こそ取っていないものの、作品の評判は上々。
院に上がる前からフィールドワークと称して各地の工房で染色の勉強をしていたようで、作品には彼独特の色合いがあるとファンも少なくないらしい。
光流がいくつか作品を譲ってもらったと見せてくれたが、彼の対応としては異例の対応だったようだ。
学祭などに〈ノルマ〉を課せられて出す事はあっても個人的に譲る事はあまりないらしい。
はじめから光流のことを知っていた様子は無いから2人が会ったのは偶然だとは思うけれど、はっきり言って気に入らない。
安形さんから話を聞き、2人の様子を聞いてすぐに彼について調べさせた。安形さんは彼に好感を持ったらしく、話を聞いても好意的だ。
一緒に行った賢志からも話を聞いたが、やはり好感を持ったらしい。
光流自身も彼に惹かれているようで、連絡を取り合っている事は聞いている。
安形さんからαではないかと聞いた時は引き離そうかとも思ったけれど、光流の様子を見て踏みとどまった。
護のと一件以来、人に対して必要以上の興味を持つことがなかった光流が彼に興味を示しているのだ。
ただ、あまり仲良くなるのも面白くないので賢志には余計な手を出さないよう釘を刺した。
上手くいくものなら手助けなど必要無い。
それで疎遠になるのならばそれまでだ。
その興味は友情なのか、愛情なのか。
兄としては面白く無いと思う気持ちを抑え、見守るしか無いのだろう…。
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