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会いたい人
「前にストールを譲ってもらってから、毎日メッセージをしてたんだ」
静流君も知っている事を告げる。
早めに朝食を終わらせていたのはしっかり話をしろと言う意思表示だろう。
食事中に必要以上の会話を嫌がる静流君らしい。
「それは知ってるよ。
そこからどうして会う事に?」
「流れ?」
思わず言ってしまった言葉に静流君が嫌そうな顔をする。
「流れって、そんな軽く?」
「軽くなんてないよ!」
呆れたように言われた言葉に強い声で反論してしまった。
軽くなんてない。
そんな風に言われたくない。
「今までもメッセージしながらそれとなくそんな話はあったんだけど、気づかないふりしてたんだ」
そう。
賢志にも胡桃にも言ってなかったこと。
時々〈誘われてる〉と思うような言葉を投げかけられている事には気付いていた。僕だってそこまで鈍感でもなければ初心なわけでもない。
そもそも、僕だって20歳を超えた青年男子なんだから駆け引きだって出来る、はずだ。
社交に出ていればそれなりにお誘いもあるし、言われている意味を理解せずに下手な返事をしてしまえば自身が危ないのだから〈耳年増〉にもなってしまう。
護君との一件以来フリーな状態は周知されてしまっている僕だが、プロジェクトのおかげで他のΩに比べれば〈守られている〉。
ただ、守られているからといって万全ではない。
僕に通常のヒートが起こらない事は周知されているため僕に何かあった場合、同意無く襲われたり番にされた場合、確実に非は相手にあるためその点では安全だと思ってはいたけれど、中には何とかして通常のヒートを起こさせようとする人がいない訳でもないのだ。
初めてそういった〈悪意を多分に孕んだ欲望〉を向けられた時は正直戸惑ったし〈婚約者〉がいかに抑止力になっていたかを痛感させられた。
なるべく1人にならないように気をつけていても1人になってしまう瞬間は当然あり、その隙をついて当てられるαのフェロモン。
20歳を過ぎてからはさり気なく勧められるアルコール。
当然社交に出る前には抑制剤を服用するし、そうなると飲酒は控えないといけない。
はっきり言ってしまえば興味のないαのフェロモンなんて気持ち悪いだけだし、下心見え見えで渡される飲み物なんて怖くて飲めない。
自衛のためにも抑制剤は必須だ。
何度も繰り返されれば慣れてしまうのは必然で、内心は舌打ちしながら相手には軽蔑の笑みを浮かべて対応している。
しているつもりなのだけどそうは見えないらしく、社交の度にそんな攻防が繰り広げられてしまう。
社交で出会うαに興味を持たなくなるのも仕方がない事だろう。
楓さんは案外早い段階で僕の本性に気づいてはいたようで、そんな時に目が合うとニヤリとされる。
「守られて当然だと思ってた光流より、今の愛想笑いしてる光流の方が好きだな」
面と向かって言うのも楓さんだけだ。
人間らしくなったね、とも言われた。
もともと僕は人間のはずだけど…。
そんな中で自分から動きたいと思ってしまった相手。
興味を持ち、会いたいと焦がれてしまう人。
そう、会いたいのだ。
そして、会わせたいのだ。
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