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僕の願い
「僕は守って欲しいなんて思ってない。
甘やかされたいわけじゃないんだ。
Ωは守られなきゃいけないの?
甘やかされてないとダメなの?
僕は静流君にとって愛玩動物でしかないの?」
言っていて嫌になってくる。
僕の気持ちは必要ないのか、ただただ従順でいなくてはいけないのか。
それならば何故、もっと早い段階で邪魔をしてくれなかったのか…。
「愛玩動物か、それも良いんじゃない?」
静流君はニヤリと笑うと言葉を続けた。
「オレが光流を囲おうか?
愛玩動物だったら囲っても甘やかしても問題ない。
だってさ、なんだかんだ言っても光流は就活だってしてないでしょ?
就活する気なんて無いもんね。
あ、名前だけのオレの秘書になる?
そしたら〈家で〉仕事してくれれば良いよ。
朝行く時に〈いってらっしゃい〉って言って、帰ってきたら〈おかえりなさい〉って言う仕事。
あとは好きにしてればいい。
こんな好条件な職場、なかなか無いよ?」
静流君は嘲るような言葉を続ける。
「幸い、光流のヒートは眠るだけだから兄弟でそんな関係になる必要もないし、もし通常のヒートが来るようになったらオレがハイスペックなαを紹介するよ。
ほら、何の問題もない」
これは、本当に静流君なのか。
静流君はずっとこんなふうに思っていたのだろうか?
「僕は囲われて甘やかされたいわけじゃない。
確かに、それが幸せなんだろうと思ってた時もあったよ。家庭に入ってパートナーを支えたいと思ったし、そうするつもりだった。
でも僕は選ばれなかったから…」
忘れたはずの想いだったのに、口に出してしまうと胸にチクリと何かが刺さるような気がする。
「僕はΩである前に1人の人間だよ。
母さんの生き方は否定しないし、そう言う幸せがあるのも理解してる。
自分自身、それが当たり前だとも思ってた。
でもね、会ってしまったとしか言えないんだけど…惹かれてるんだ」
どうすれば静流君を説得できるだろうか。
静流君に囲われてこの家で過ごすのも、静流君に充てがわれたαと番うのもごめんだ。
「選ばれなかった僕が誰か選ぶのは烏滸がましい?
僕はこのまま選ばれるのを待たないといけないの?
僕が選んだ人なのに、静流君は会ってもくれないの?
静流君には喜んでもらいたかったのに…」
言っているうちに何かのタガが外れてしまったのだろう。涙がポロポロと溢れだす。
「メッセージのやり取りが楽しかったんだ。
何て送ろうか考える時間が楽しくて、返ってくるメッセージが嬉しくて。
でも、僕はΩだから、彼には伝えてないから、だから誘われてるのがわかっても気づいてないフリをしてきたんだ。
僕だって、好きでΩになった訳じゃないのに」
そう、これが本音なのだ。
何でもできるαの静流君が羨ましかった。
どこにでも行けて、何だってできる。
1人での外出を心配されることもないし、思い立ったらすぐに友達にも会える。
賢志だって、友達と飲みに行ったり遊んだりしてる。
僕だけが1人で何もできないのだ。
仕方ないと思っていたし、我慢だってしてきた。
本当はやりたい事だって、行きたい場所だって沢山あった。
それでも我慢してきたのだ。
紬さんに会って欲しい。
好きな人に会いたい。
僕の願いは、僕の我儘はそんなにも否定されなくてはいけないのか。
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