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初恋
Ωの僕が彼と出会ったのは、まだ小学生の頃だった。
Ωとかαとかβとか、そんな事をまだ気にしていない頃。兄が連れてきた友達を一目見てドキドキしたのを覚えている。
兄と僕は2歳差だった事を考慮しても、見るからにαの兄より僕の方が全てのことが少し劣っていた。2歳差と言えば納得できなくもないけれど何かが違う。
知能的にはほんの少し兄の時より遅い程度だったけど、肉体的には身体に肉が付きにくく、食事量も兄の半分も食べれば満腹になってしまう。
αの父とΩの母の間に生まれた僕たちだ。改めて言わなくても、性差がはっきりしていなくても兄はαで僕はΩだと認識されるのは至極当然でしかなかった。
「はじめまして、光流くん?
僕は護、君のお兄さんの友達だよ」
小学6年生だった彼は大人びた口調と態度で僕に挨拶をした。
兄の友達はそれまでもよく遊びに来てきていたけれど、意図してαの友達は連れてきていなかったのに、彼の佇まいはどう見てもαでしかなかった。
それはある意味お見合いのようなものだったのだろう。兄と気の合う友達で、地元の県議である父を持つ将来有望であろうα。名家に生まれたΩの僕を守ることができる存在。
この先、僕と番うのであれば進路も僕を守ることの出来る道筋をつける必要があるため用意された出会い。兄だけでは守れない時のための予防線。
ドキドキはしたけれど、一目見て魅かれたわけではなかった。
兄とは違う、憧れの存在。
勉強もできて、ゲームも上手で、ただひたすら甘やかしてくれる存在。
僕にとっては〈お兄ちゃん〉が1人増えた感覚だった。もともと兄は可愛がりすぎるほどに僕を可愛がっていたのにそれに加えて彼、護の庇護が加わったことにより周囲からも〈守られるべき存在〉として僕は認識されるようになっていく。
週に何度か一緒の時間を過ごす。
宿題を見てもらったり、ゲームをしたり。
食事をしてそのまま泊まることもある。
兄のように時々意地悪をするわけでもなく、ただひたすらに僕を守ってくれる存在。
悪い事、いけない事をした時には諭すように正してくれる護。
僕は徐々に彼に魅かれていった。
護が遊びにくると嬉しい。
護が近くにいると落ち着く。
護ともっと一緒にいたい。
兄に対して思う気持ちと、護に対して思う気持ちは似ているようでどこか違う。
この時、彼に恋心を抱き始めたのかもしれない。
相性が良さそうだと判断されたのか、護は僕たち兄弟が入学する予定である中高一貫の学校に入学が決まった。希望すれば付属の大学までエスカレーター式に行けるため、僕たち兄弟は早い段階でここに入学することが決まっていたのだ。
大学も選択できる講義が幅広く、レベルも高いためそのままエスカレーター式で入学する予定だ。外部のもっとレベルの高い大学ももちろんあるけれど、受験のために使う時間を自分を高めるために使うべきだという両親の考えで外部を受験する予定は無い。
「学費諸々は心配しないで光流を守る事を1番に考えてほしい」
後々その言葉が負担だったと言われたけれど、だからと言って裏切っていい理由にはならない。
小学校を卒業し、中学に進学すると護が家に来ることが増えた。兄と予習復習を行う横で僕も宿題をする。宿題を終えると同じ部屋にあるソファーに移動して読書をする。その頃からゲームよりも読書を好むようになった僕は、兄や護の邪魔をする事なく静かに過ごすのが日課となった。
この頃だろう、護の近くにいると落ち着くのはなぜかと意識するようになったのは。
兄といる時とは違う安心感。
家の仕事の関係でαの子息と会うこともあるけれど、そんな時は兄が少しでも離れると不安になることが多い。ヒリヒリするような皮膚感、苦しくなるような胸のドキドキ。それなのに護となら2人でいても不安になることはないし、時には兄を邪魔に思うこともある。
「静流君、お話聞いて?」
そう切り出して兄、静流に話を聞いてもらう。自分の気持ち、静流といる時の気持ち、そして護といる時の気持ち。
ゆっくり考えながら話す僕を面白そうに、それでいて慈しむように見て兄が言った。
「光流、それは恋だよ」
「でも、僕も護君も男だよ?」
「護はαで……光流はΩでしょ?」
そう言われて何かがはまった気がした。
「護君は僕のα?」
「俺はそう思ってるよ」
兄の肯定を受け嬉しくなった僕は護を恋愛対象として意識するようになったものの、具体的に何かするわけでもなく穏やかに日々が過ぎていった。
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