シナモン

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シナモン

 軽いヒートを起こした翌日、兄に叱られた。  賢志は昨夜のうちに叱られたようで意気消沈している。 「これからは移動の時は絶対に2人で行動するように」  と小さい子のように言い含められてしまった。そして、その日の夜には賢志と2人揃って似たような事で父に叱られることになる。 「それで、何か気付いたことは?」  静流君はそう言うけれど、賢志も僕も心当たりはない。昨日のサロンは思い出してみても知らない人もいなければ、変わったこともなかったのだ。賢志も戻ってから注意して様子を見たものの、やはり気づくような変化はなかったと言った。 「そう言えばお菓子外した」  僕の言葉に2人が意外そうな顔をする。  今まで百発百中だっただけに驚いたのだろう。 「部屋に入った時にスパイス系の香りがしたからそっち系のスパイスの効いたお菓子が出てくるかと思ったらフィナンシェだった」  その言葉に賢志が怪訝そうな顔をする。 「スパイスって?昨日ははじめから甘い香りしかしてなかったと思うけど…。  どんな香り?」 「本当?シナモンみたいな香りしてなかった?お菓子じゃないなら誰かがチャイでも飲んでたのかと思ってたんだけど…」  自分の嗅覚に自信がなくなる。  向井さんが作るお菓子を長年楽しんできたせいか、お菓子の香りでそれが何かを外す事がなかっただけに衝撃は大きい。 「それ、本当にシナモンか?」  静流君が訝しげな顔をする。 「だと思うけど…。向井さんにシナモン出してもらって確かめようか?」 「そうじゃなくて」  僕の様子に静流君はもどかしげだ。  賢志は何かに気づいたような顔をする。 「静兄、もしかして」 「うん、多分αのフェロモンじゃないか?  賢志も気付いてればΩのフェロモンってことも有るけど、光流だけが反応してヒートを誘発されたとなると多分そうだ」  静流君が考えながら言葉を続ける。 「でもな、ここにある名前見ても全員光流と面識あるんだよな…」  そう言って名簿を見直す。  αもβもΩも参加するからこそ出席者の把握は重要だ。ただし急な出席は出来ないものの、欠席する場合は連絡さえすれば問題ない。  今回の静流君がそうだ。 「予定外に人が増える場合は事前に連絡があるはずだし…ちょっと調べてみるけどしばらくはオレのいない時はサロンに行くの禁止な。  それと、不用意な行動は慎むように」  再度釘を刺されてしまった。 「僕が大丈夫なんて言ったから巻き添え食わせちゃってごめんね」  賢志に謝ると「こっちこそ認識が甘くてごめん」と謝られて居た堪れなくなった。 「まぁ、オレも想定してなかった事だから2人してそんなに落ち込まない。  何かある前にこう言う事があって良かったんだよ」  そう言って静流君に慰められてしまう。  うちの兄は鞭と飴の使い方が上手いらしい…。
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