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僕の本心
〈運命〉だったかもしれない彼についてはちゃんと先生にも相談した。
ヒート後の診察の時に相談してみたのだ。
フェロモンを感じた時の様子。
あれは〈暑い〉のではなく〈熱い〉だったのではないかと。外からの暑さではなく、自分の内側からくる熱さ。
以前、挑発フェロモンを受けた時の気持ち悪さや発熱するほどの嫌悪感とは違い、今回の高揚する感覚と包まれるような熱さは似ているようで全く違う感覚だった。
「それ、いわゆる普通のヒートの状態だね」
先生はあっさりとそう言った。
「やっぱりそうですか?」
「だね」
その先生の言葉で僕にも通常のヒートが来る可能性があるのだと気持ちが沈んだ。
「光流君はそのフェロモンの持ち主と会ってみたいですか?」
「会いたくありません」
思わず食い気味に答えてしまう。
「それはどうして?」
「ヒートなんて来なければいい…」
「理由を聞いても?」
「…誰かと触れ合いたいと思えません」
先生の質問に素直に答える。
誰かと触れ合いたい。
誰かに触れられたい。
誰かに触れて欲しい。
はっきり言えばそんな願望が全く無いのだ。
年齢だけで見れば18歳はもう成人である。でも、大人として感じても良いはずの〈性衝動〉を感じる事がない。
静流君にパートナーの話を聞いた時も興味があったのは〈静流君の人間関係〉であって、静流君のそちらの事情ではない。
胡桃がパートナーの彼と番うことも〈幸せになって欲しい〉と思うだけで自分もパートナーを、番を持ちたいなどとは思わないのだ。
「拗らせちゃってますね」
先生は苦笑いをしながら独自の見解を述べる。
「よく〈運命〉だなんて言いますけど、結局は身体の相性なんです。
相性が良ければ自然に回数を重ねます。回数を重ねれば当然妊娠しやすくなる。妊娠しやすくなると言う事は当然〈自分の子孫を多く残す可能性が高くなる〉と言う事なんです。
なので、生存本能としてより相性の良い相手を見つけた時に起こる現象を〈運命〉と呼ぶのだと、僕はそう思っています」
「それならば、僕は尚更あのフェロモンの持ち主には会いたくありません」
「じゃあ、どうしたら良いのか対策練らないとね」
先生はあっさりと言う。〈研究のために〉と何か言われるのではないかと身構えていただけに拍子抜けだ。
「光流君にそう言った〈欲〉を感じる要因があると分かっただけで十分だと思いますよ。
下手に会って通常のヒートを誘発してしまったら辛いのは光流君です、色々とね。
でもとりあえずはそれが誰だか突き止めないといけませんね。静流君には頑張ってもらわないと」
「先生は運命と出会った人を知ってますか?」
気になって聞いてみる。先生の職業柄知っている可能性もあると思ってのことだ。
「どうですかね。よく〈お話〉としては聞きますけどね。実際に〈会った瞬間一眼で恋に落ちた〉なんて事はなかなか無いですよ。お互いのそれまでの生活もあるわけですしね」
なんだかうまく誤魔化されているような気もするけれど、先生も〈運命〉をよく思ってはいないことだけはわかった。
「もしも体調に異変が出た時はすぐに連絡してくださいね」
そう言って診察を終えた数日後、彼女から連絡が来たのだった。
※attention※
次回から少し時間が進みます。
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