トラウマと胸の高鳴り

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トラウマと胸の高鳴り

 いつまでもグズグズ食堂にいるわけにもいかず、賢志が部屋に戻るときに僕も自室に戻ることにする。  リビングで2人で勉強する時もあるが、今日は賢志が部屋に戻りたそうだったから声をかけるのはやめておいた。僕も部屋に置いてきたスマホが気になるから引き止める事はしない。  そして今、部屋に戻ってきたもののバックからスマホを取り出そうかどうしようかと迷っている…。  別に、挨拶だけのメッセージだったんだから既読スルーでも、返事が来ていても問題はないはずだ。  問題はないはずなのに、それなのに躊躇してしまう。  胡桃がいたら「そういうの、トラウマって言うのよ?」と笑われそうだ。  いつまでもグズグズ考えていても仕方ない、そう思い何分経ったのだろう。  スマホがメッセージの受信を知らせる。  時計を見ると8時を少し回ったところだ。  授業のある時ならいざ知らず(あっても連絡は賢志に来るけど)、こんな時間にメッセージを送ってくる相手が思い浮かばずその意味を考えてドキドキする。  まさか…、と思いながら画面を確認するとメッセージが2件届いているとの表示があり急いでアプリを開く。  自分で染めた布なのだろうか、色とりどりのストールを写した写真がアイコンになったアカウントに➁と付けられた印。  紬さんからのメッセージだ。  メッセージを開くだけなのに緊張してしまい、指先が軽く震える。 〈こんばんは。  こちらこそ、今日はありがとう。  ボクは今、明日からお世話になる工房に向かっているところです。  おやすみなさい〉  時間を見ると22時過ぎで、僕が送ったのは21時前。移動手段はわからないけれど昨夜のうちに連絡をくれていたらしい。  返信がなかった時のことを考え、必要以上に怯えていた事を少し後悔する。 「返信したかったな…」  思わず呟き、もう片方のメッセージも続けて読む。 〈おはよう。  やっと目的地につきました。  今日は挨拶をして明日からは作業です〉  もしかして車での移動だったのだろうか?   〈おはようございます。  移動、お疲れ様でした。  挨拶の後、ゆっくりできるようならしっかり休んでくださいね〉  余計なことかとも思ったものの、ついそう送ってしまった。送った後で返信が早すぎたかとも思ったけれど、自然と指が動いていたのだから仕方がない。  昨日、出会ったばかりで押し付けがましかったかと後悔した矢先にまたメッセージの受信を知らせる音がする。  ドキドキしながら確認すると〈OK〉というスタンプが送られてきており思わずにやけてしまった。  こんな感覚は久しぶりだ。 ※attention※ 次回からはしばらく紬視点が続きます。
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