悩める男〈紬side〉

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悩める男〈紬side〉

 予定よりも早めに目的地近くに着いたため最寄りのコンビニで最後の休憩を取る。  仮眠をしただけだが頭はすっきりしている。  コーヒーを飲む気分では無かったのでお茶とおにぎりを買って車に戻った。  約束の時間は9時だが今は8時になろうとしているところだ。  手持ち無沙汰でスマホを開いてメッセージをチェックしてしまう。やはり既読はついていない。  既読が付いていないのにさらにメッセージを送るのはマナー違反だろうか?  挨拶くらいなら、返信を求めないメッセージなら大丈夫だろうか?  結局、考えるのは彼の事ばかりだ。  恋を知ったばかりの中高生でもあるまいし、と自分自身に呆れながらも指はメッセージを作り上げていく。 〈おはよう。  やっと目的地につきました。  今日は挨拶をして明日からは作業です〉  これで返信がなければ諦めよう。  諦めたくはないけど諦めるしかないんだ…。そう思い送信のアイコンを指先でそっと触れる。  彼との距離は計り知れないのにメッセージだけは一瞬の指の動きだけで届けられてしまう。  この気軽さが良いのか悪いのか、今の俺の頭では判断しかねるが近いようで遠い距離がもどかしい。  そして、何より今現在の物理的な距離にも〈何か〉の悪意を感じてしまう。  って、この工房を決めたのは自分だった。  邪魔してるのは自分自身か?!  しばらくしてメッセージの着信を知らせる音がした。まさかな…と思いつつメッセージを開く。   〈おはようございます。  移動、お疲れ様でした。  挨拶の後、ゆっくりできるようならしっかり休んでくださいね〉  ………。  何かの間違いではないかとメッセージを確認する。  初めに来たメッセージの後に俺の送ったメッセージが続き、最新のメッセージが表示される。  アイコンは間違いなくパンケーキだ。  期待しておいて、それでも諦めていたのにこのメッセージだ。  嬉しくないわけがない。    なんて返そうか考えて、考えて考えて、上手い言葉が思い浮かばず、余計なことを書いてしまいそうで、悩み抜いた挙句〈OK〉とスタンプを送ってしまった。  これで良かったのか悪かったのかはわからないが、返信が来るということは少しは期待していいのだろうか?  とりあえず次のメッセージを送るためにも挨拶に向かうことにする。  あれ程までに帰りたいと思っていたのに彼にメッセージを送る口実ができたと思うと俄然やる気が出てくる。  我ながら単純過ぎる…。 ※attention※ ここで紬sideは1度終わります。 次回からはまた光流視点に戻りますのでよろしくお願いします。
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