賢志との対話

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賢志との対話

「何してた?」  部屋から出ると賢志が話しかけてくる。  朝は寝不足気味な顔をしていたくせに今はスッキリした顔をしている。もしかしなくても寝たな? 「勉強してたよ。  あとスマホで調べ物」  素直に答える。  自分で動くには協力者が必要だ。  どの道、外出したくても1人では出かけられないため何かしようと思った時に賢志の協力は必須だ。隠し事は極力しない方がいいだろう。 「調べ物?珍しいね」  賢志が驚いたように答える。思っていた通りのリアクションに苦笑いするしかない。 「欲しいものがあって調べてみたんだけど、沢山ありすぎて何が良いのかわからなかった…」  素直に答えると「だろうね」とあっさり返される。なんだか悔しい。 「なに?何か欲しいの?」 「今すぐじゃないよ。  ガーゼが思いのほか気持ちいいから他にも何かないかと思って」  そう言うと「あぁ、そう言う事ね」とよくわからない返事が返ってくる。 「気に入ったの?」 「うん」  付き合いが長いせいだろう、短い返事で会話が成り立つけれど〈そう言う事〉が何を指しているのかいまいちよく分からない。  それでも会話は続いていく。 「あれ、いつ使うの?」 「ガーゼだから春先からかな。  薄いから冷房対策に持ち歩くにも良さそうだし」 「冷房、苦手だもんね」  話しているうちに食堂に着く。  お昼ご飯はもう準備されていて席に着くと「いただきます」とそれぞれ手を合わせて食べ始める。  今日の昼食は温かいうどんと天ぷらだ。  僕と賢志の物では量が全く違うのが面白くない。量が少ないことがではなく、身体的なスペックを見せつけられている気分になるからだ。  もちろん賢志と同じ量を用意されても食べられないのだけど、それでも面白くない。 「なに?  何か欲しいの?」  …さっきもそんな事を言われたような。 「違う。  僕がそんなに食べたらお腹がおかしくなりそうだな、と思って」 「…確実にそうだな」  賢志が苦笑いする。 「子どもの頃さ、夏休みだったかな。  静兄達が食べる量見て真似しようとしてお腹痛くなったことあったよね」  今度は思い出し笑いか?と思いつつ、静兄達という言葉が心にチクリと刺さる。静兄達の達に含まれる人物は1人しかいない。  2歳年上の〈静兄達〉は僕にとっても賢志にとっても憧れの存在だったのだ。 「あ、なんか…ゴメン」  僕の表情で何かを感じ取ってしまったのだろう。 「何が?」  素知らぬ顔をして天ぷらをつつく。僕の好きなさつま芋とかぼちゃがあるのが嬉しい。 「光流は昼からも勉強?」  もう食べ終わったのか、食後のお茶を飲みながら賢志が聞いてくる。 「やる事ないからその予定」 「切羽詰まってる?」 「全然」  短い会話が続く。 「ちょっと、話がしたいんだけど大丈夫?」 「いいよ。  どうする、リビングか僕の部屋か、離れか」 「ちょっと込み入った話したいからリビング以外」 「じゃあ、僕の部屋行く?  向井さんにお茶お願いしておこうか」  込み入った話と言われるとどんな話か気になってしまう。  賢志の話が気になる僕は急いで残りのうどんを食ようとして、「そんなに慌てなくていいから」と呆れられるのだった…。
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