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「もう好きじゃないの?」
1番気になることを聞いてみる。
〈好き〉か〈好きじゃない〉か、それとも〈嫌い〉なのか。
「どうなんだろうね?
向こうが好きでいてくれるなら好きでい続けられるけど、俺だけじゃどうにもならないことって有るじゃない?
いくら今好きでも、彼女の希望通りこっちで就職したら好きでい続ける自信はない。会えないし、自分に関心が無いし、そうなると好きって気持ちは維持できないよ。
彼女が自分を好きだと感じられれば頑張るけど今の状態なら無理」
無理と言うことは、もう好きではないのだろうか?
「僕の時は好きだったのに徐々に徐々に気持ちを殺されていったんだ…」
賢志の様子に僕は重い口を無理やり開く。
塞がりかけた傷が疼き出す。
「賢志は彼女さんと連絡は取れてるんだよね。それならまだ大丈夫なんじゃない?
相手に関心がなくなるとね、連絡がなくなるんだ。
メッセージを送っても、既読がついても、返信が来ない。
返信が来ないのは忙しいからだと思って連絡を控えると、次にいつメッセージを送っていいのかわからなくなるんだ。送ったら迷惑なのかも、送っても既読がつくだけで返信はまた来ないかも。そう思っているうちに僕からメッセージを送るのが怖くなった。
約束も静流君を介してキャンセル。会っていても僕の言葉を悪いように受け止めて拒絶されて、そのくせ自分は僕以外の匂いを纏ってるんだ」
思い出したくないことなのに、心の奥底に沈めたはずなのに。
それなのに少しのきっかけで浮上してくるこの想い。
「最後に会った時に、婚約を解消したいって言われた時に理由を聞いたら『光流のことが嫌いになったんじゃない。ただ、小学生の頃に決められて当たり前のように思ってたけど自分の足で歩いてみたくなった』そんなこと言われたんだけど…その時にはもう番がいたんだよね、護君」
僕の言葉に賢志が驚いた顔をする。どの程度まで婚約解消の経緯を理解しているのか知らないけれど、僕の触れたくない感情を引き摺り出したんだから巻き込んでしまおう。
「父さんとも静流君とも話はしてあったんだ。
自分の非を認めて僕から婚約破棄をして欲しいと言われれば許そうって。
好きな人ができました。
光流とは結婚できません。
婚約を破棄してください。
そう言われれば形ばかりの慰謝料をもらって円満に別れるつもりだったんだ。
でもね、護君は嘘をついて、その嘘を隠し通したまま婚約解消を望んできたんだよ。
だから〈婚約解消〉は受け入れた。
僕は眠ってしまったから全て静流君が処理してくれたんだけど〈僕が全て知ってること〉〈今後2度と関わり合いを持つつもりはないこと〉〈婚約解消の経緯は他言しないこと〉〈婚約解消について調べられても事実を隠す事は許さないないこと〉を伝えた上で婚約解消を受け入れた。
僕の希少ヒートについて調べられても何一つ隠さない覚悟だって伝えたって言ってたよ。
予め決めていた事だったんだけど、流石に僕の知らないうちに話がまとまってたのには驚いたけどね」
「光流はその間…」
「寝てたよ。
護君がとっくに番を持ってたことも、僕に嘘ついてたこともショックだったんだろうね。
その後、1週間眠り続けてたんだって。
だから目が覚めた時には全て終わってた。
そのせいかな、あまりに呆気なくて悔しくて、静流君に当たり散らして困らせちゃった」
僕が笑うと賢志は一言「ごめん」と呟くように言った。
何に対しての「ごめん」なんだろう。
「忘れた事なんてないよ。
今でも何が悪かったのかって考える時もあるし、あの時こうしてたら、あの時こうしてれば、そんな事ばかり考えてる。
何も悪いことしてない僕がこんなに傷付いてるのに、護君とその番は幸せに暮らしていくなんて不公平だとも思ったし…。
それは静流君が否定してくれたけどね」
「否定?」
「色々複雑なんだよ。
αとかΩとか、フェロモンとか本当に面倒臭い。気になるなら全部文章に残してあるって言ってたから静流君に言えば出してくれると思うよ?」
疲れてしまいこれ以上話すのが面倒になってしまったのだ。
「だからさ、連絡くるうちはまだいいと思うよ?
話だって聞いてくれるんでしょ?
向こうだって言えないだけで何か事情があるのかもしれないし。
別れるって決めるのはまだ早くない?
まぁ、僕は恋愛とは無縁だから何とも言えないけどね」
僕がそう言うと賢志は意外そうな顔をした。
「でもさ、気になってる人はいるだろ?」
そう言われて動きが止まってしまう。
「気になってる人?」
「うん。
紬さんの事、気になってるでしょ?」
賢志の言葉に衝撃を受ける。
僕はそんな素振りを見せていたのだろうか?
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