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友達
2人で何となく過ごすのが心地良くて、気付けば夕食の時間になっていた。
いつもなら時間通りに食堂に行く賢志が来ないため、僕の部屋に様子を見にきた向井さんは「珍しいですね」とソファーで昼寝をする賢志を見て笑う。
話してるうちにうとうとし始めた賢志に毛布をかけたのは僕だ。ずっと悩んでいてしっかり眠れてなかったのだろう。
僕は検索に疲れてしまい手持ち無沙汰になったので試験勉強を再開していたらそれに気付いた賢志に「狡い」と怒られた。
何だか理不尽だ…。
夕食は賢志も僕も妙なテンションで、最近は静流君が忙しくていないことをいい事にダラダラと取り止めのない話をしながら食べることを楽しんだ。
「こんな時、友達同士だと飲みに行ったりするの?」
と聞いてみる。
僕には未知の世界だ。
「だね。
俺も地元に帰った時とかはそうかな。20歳になったから堂々と飲めるし。
で、さっきの下世話な話がエスカレートする。もう、本当に最低だよ」
最低と言いながら口調は楽しそうだ。
「こっちだと僕の世話ばっかりだからそんな機会無い?」
「そうでもないよ?
光流と静兄が社交の時にこっちの友達と行くことあるし。
地元からこっちに来てるのもいるし、大学の友達もいるし」
サラリと言われた事だったけれど初耳だ。
「いつの間に…」
軽くショックを受ける。
ほとんどの時間僕と過ごしてるのに…。
「なんかショック受けてるみたいだけど元は光流絡みだよ?」
「僕?」
「そう。
光流とお近づきになりたくて先ずは俺からってのが多いかな?」
これも初耳だ。
「なんか、ヤダ…」
「そう?
城を落とすなら先ずは外堀からって普通だよ??俺だって彼女とお近づきになるためにやったし」
そう言うものなのか?!
「特に光流の場合は静兄と俺がいたから静兄よりは話しかけやすい俺がターゲットになってたってわけ」
賢志は何故か得意そうだ。
賢志が言うにはその中から僕に会わせても良いかな?と思う相手がいれば紹介してくれていたと言うけれど…ごめん、全然思い当たらない。僕のリアクションを見て離れていく人もいれば、そのまま友達付き合いを続ける人もいるし、中には「姫目当てだったけど」と言って自己申告して「改めて賢志と友達として付き合いたい」なんて言ってくる人も少なくないらしい。賢志の人徳だろう。
興味があれば紹介すると言われたので〈友達〉として話ができる相手がいたら、とお願いしてみた。
「静兄と俺で光流の貞操は守り続けます!」
お酒を飲んでいないのに妙なテンションだ。
妙なテンションだけど嫌じゃない。
むしろ、ここ数年腫れ物を扱うようにされていたことを考えるとずいぶん心地が良い。
きっと、今日までの間にも色々なキッカケは有ったはずなのに気付いていなかったのか、気付きたくなかったのか。
もっと口に出して、自分の言葉にして伝えればよかったのかもしれない。
でも〈僕のために〉動いてくれているのを見ると何も言えないし、言ってはいけないのだと思い込んでいた事に気付かされた。
賢志が初対面の紬さんに話を聞いたように、永井さんが僕のために自分の持つツテを総動員してくれたように〈自分で〉動かないと駄目なのだろう。
僕も、自分で動かないと駄目なんだ。
1人で外出させてもらえないからと諦めるのではなくて、その中でどう動けばいいのか考えるべきなんだ。
とりあえず今の状況なら賢志に協力をお願いするのが1番いいだろうと結論を出す。
それならば、先ずは何なら出来るのかを考えよう。
何をしたいかを考えよう。
とりあえずは検索を上手くできるようになるのが今の課題だ…。
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