周囲のかけひき

1/9
前へ
/95ページ
次へ

周囲のかけひき

 「……彼女がバージニアに来ることは聞いていなかったのです。私に内緒で商いを理由に来ていたのを、あのとき初めて知りました。彼女の素性が明らかになることは、望んでいない可能性もあり、知らぬふりをしたのです。婚姻をしないで国に戻ると伝えて別れましたが、彼女は信じてくれていなかった。ただの伯爵令嬢でないことは、皇太子様もおわかりでしょう。彼女は自分の考えを曲げることはしません。皇太子様のご正妃には、公爵令嬢でもなく、伯爵令嬢でしかない彼女は身分的にも難しいかと思います」  「……どの口がそのようなことを言うものやら。自分なら釣り合うとでも」  「私は第二王子。国を継ぐのは兄です。正妃を誰とするかは基本私の判断に任されています」  二人はにらみ合ったまま、冷たい空気が流れた。  「とりあえず、今日のところは、話し合いはこれまでとしよう。こちらも考えをまとめる時間が必要だ。そなたも父王に報告の必要があるだろう。私も今日の件でエセン王に礼を言わねばならない。そなたの父王と話し合う必要がありそうだ。それからだな」
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加