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「……ふふふ、すみません。だって、婚約者だなんて。まだ、そんなこと決まっていません」
「最後まで、書面を読んだのか?」
「いいえ」
王印の前の最後のあたりを読むと、驚いた。そこには、こう書かれていたからだ。
『なお、ロゼリア・フォン・サミュエルは、アーサー・ド・エセンの婚約者である。これは王室のみの秘匿事項であった』
「心配するな。お父上のサミュエル伯爵にもご了解いただいている」
私は、驚いて紙面から顔を上げた。目の前にあるアーサーの笑顔を見たら、何かがこみ上げてきた。気づいたら泣いていた。
アーサーは私をぎゅっと抱きしめて、黒髪にキスを落とすと背中をなでてくれた。
「もう、誰にも渡さない。公に君は私の妃となるのだ」
「……夢じゃないんですよね?」
「もちろん。父上を説き伏せるのに時間はかからなかったが、交際しているのを内緒にしていたから驚かれたけどね」
「……うれしい。ありがとうございます」
「さあ、半刻時に王様と王妃様、皇太子に謁見の申し入れをしてある。一緒に行こう」「はい」
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