第十一章 株式会社おくりび

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どのくらい時間が経ったか分からねぇけど、話疲れて少し喉が渇いてきた頃。 亜由美さんの頭上の珠は、一点の濁りも無くなり薄青色に煌めきだした。 最初に珠を視た時は、多少のノイズが点在してたがそれさえも視当たらない。 負の感情を出し切ったのか、椿の花を胸に押し当て背筋を伸ばし、亜由美さんの顔つきは明らかに変化した。 で、そんな顔を視ていたら、ごくごく自然にこんな言葉が出たんだよ。 「なぁ、そろそろ酒井様に会いにいかねぇか?」 これ、1度目に言った時にはガチ拒否された。 ”なにも知らねぇクセに無責任なコト言うな!” って。 でもよ、今度はそんなん言わせねぇ。 たくさん話を聞かせてもらって事情を知った今だって、同じ事を思うから。 亜由美さんはすぐに返事はしなかったけど反応がさっきと違う。 ”拒絶” の色は視えなくて、そこにあるのは僅かな ”ためらい” だけだった。 「怖いか? けど大丈夫だ、俺達がいる。ずっと傍についてるし橋渡しも当然してやる。亜由美さんが会いたいように酒井様も会いたいはずだし、……ん? テキトーじゃねぇよ。そりゃあな、兄妹(ふたり)の過去はキツイと思った。俺なんかが綺麗事でとやかく言える内容じゃねぇ。それでもよ、酒井様はずっとずっと妹を大事に想ってきたんだよ。そうでなければ、わざわざ実家に戻って来ねぇし、そこから長い年月を一緒にいたりしねぇだろうよ」 力説してみた……が、しかし、亜由美さんも中々しぶとく粘ってる。 『で、でも、私が死んだ最期の日、兄に対して酷い事を言いました。さ、さすがに怒ってると思うんです……』 「ああ、そう思うなら尚更、直接会ってあやまれば良いじゃんか」 『あ、あやまって……許してくれるでしょうか……』 上目遣いの不安顔、亜由美さんはギュッと口を噛んでいた。 だからここで最後の一押し。 「分かってねぇなぁ。そんなの許すに決まってる。兄なんて妹になにをされても怒れないんだ。妹は守るもの、妹は全力で大事にするもの。俺、しつこいくらいに言っただろう? 兄という生き物はそういうものだ」 亜由美さんは『あ……』と呟き泣き笑い、両目を真っ赤に大きくコクンと頷いた。
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