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~~~20XX年5月某日・志村 弥春~~~
出勤前は慌ただしい。
家を出るまで、限られた朝の時間は昼間よりも早く感じる。
起床は5時半。
顔を洗って朝食を食べ、髪を整え歯磨きしたら、あっという間に時間が経過。
残るタスクはスーツに着替えてネクタイ締めて、飲みかけのコーヒー飲んだら準備は完了。
7時には家を出ないと間に合わないが、時計を見れば現在6時55分。
よし、これでもう俺はいつでも出発できる。
が、茉春が来ない。
アイツはなにをやってんだ?
「茉春ー、もう7時になるぞー。あと5分で降りてこなけりゃ俺は先に出るからなー」
玄関で靴を履きつつ、二階まで聞こえるように大きな声を張り上げた。
すると、
「えっ!? 弥春待って! 置いてかないで! すぐに行くからっ! 用意はできてるの! なのにストッキングが伝線しちゃったんだよぉ! お願い待って! 今履き替えてるから! もうあとチョットだからぁ!」
慌てふためく茉春の声が聞こえてきた。
ストッキングか、女は大変だな。
靴下じゃダメなのか?
まぁ会社だし、ダメなんだろな。
そんな事を考えながら、茉春が来るのを待ってると、リビングからジャージ上下の母ちゃんがやってきて、
「弥春、茉春! アンタ達、今日は折り畳みの傘持っていきな! 今テレビで夕方から雨が降るって言ってたから!」
朝っぱらからドデカイ地声を響かせて、傘を2本差し出した。
それらを受け取りカバンの中にしまっていると、ドタドタと音をさせ茉春が1階に降りてくる。
「弥春 お待たせ! あ、母ちゃん、お弁当ありがとね! 今日のおかずはなに? カラアゲ? やった! 大好き!」
カラアゲにはしゃぐ茉春はニコニコ笑って靴を履く。
母ちゃんはそんな娘の背中に手を置きこう言った。
「茉春、入社して1ヶ月が経ったけど仕事は慣れてきたか? 新社会人だし色々と大変だろ。まぁ、弥春と同じ会社だし、そんなに心配してないけどさ」
”心配してない”、口調は軽いが、表情はそうでもなさそうだ。
聞かれた茉春はほんの半瞬、雲った顔をしたけれど、
「うん、だいぶ慣れてきた。とは言っても、まだまだ分からないコトだらけだよ。はぁ……早く仕事を覚えて楽になりたい……あ! でもね、弥春はスゴイんだよ! もう仕事を覚えちゃったんだから! 社内でも噂されてる、”今年の新人の中でダントツに優秀” だって! ……あはは、私は毎日アワアワで、そんな噂も立たないってのに……ホント、イヤになっちゃう。なんでこんなに違うんだろ……私と弥春、同じ双子の兄妹なのにね、」
そう言ってニヘリと笑うが、その表情は情けなくって力弱い。
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