第一章 弥春と茉春(ミハルとマハル)

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~~~20XX年5月某日・志村 弥春(みはる)~~~ 出勤前は慌ただしい。 家を出るまで、限られた朝の時間は昼間よりも早く感じる。 起床は5時半。 顔を洗って朝食を食べ、髪を整え歯磨きしたら、あっという間に時間が経過。 残るタスクはスーツに着替えてネクタイ締めて、飲みかけのコーヒー飲んだら準備は完了。 7時には家を出ないと間に合わないが、時計を見れば現在6時55分。 よし、これでもう俺はいつでも出発できる。 が、茉春(まはる)が来ない。 アイツはなにをやってんだ? 「茉春(まはる)ー、もう7時になるぞー。あと5分で降りてこなけりゃ俺は先に出るからなー」 玄関で靴を履きつつ、二階まで聞こえるように大きな声を張り上げた。 すると、 「えっ!? 弥春(みはる)待って! 置いてかないで! すぐに行くからっ! 用意はできてるの! なのにストッキングが伝線しちゃったんだよぉ! お願い待って! 今履き替えてるから! もうあとチョットだからぁ!」 慌てふためく茉春(まはる)の声が聞こえてきた。 ストッキングか、女は大変だな。 靴下じゃダメなのか? まぁ会社だし、ダメなんだろな。 そんな事を考えながら、茉春(まはる)が来るのを待ってると、リビングからジャージ上下の母ちゃんがやってきて、 「弥春(ミハ)茉春(マハ)! アンタ達、今日は折り畳みの傘持っていきな! 今テレビで夕方から雨が降るって言ってたから!」 朝っぱらからドデカイ地声を響かせて、傘を2本差し出した。 それらを受け取りカバンの中にしまっていると、ドタドタと音をさせ茉春(まはる)1階(した)に降りてくる。 「弥春(みはる) お待たせ! あ、母ちゃん、お弁当ありがとね! 今日のおかずはなに? カラアゲ? やった! 大好き!」 カラアゲにはしゃぐ茉春(まはる)はニコニコ笑って靴を履く。 母ちゃんはそんな娘の背中に手を置きこう言った。 「茉春(マハ)、入社して1ヶ月が経ったけど仕事は慣れてきたか? 新社会人だし色々と大変だろ。まぁ、弥春(ミハ)と同じ会社だし、そんなに心配してないけどさ」 ”心配してない”、口調は軽いが、表情(かお)はそうでもなさそうだ。 聞かれた茉春(まはる)はほんの半瞬、雲った顔をしたけれど、 「うん、だいぶ慣れてきた。とは言っても、まだまだ分からないコトだらけだよ。はぁ……早く仕事を覚えて楽になりたい……あ! でもね、弥春(みはる)はスゴイんだよ! もう仕事を覚えちゃったんだから! 社内でも噂されてる、”今年の新人の中でダントツに優秀” だって! ……あはは、私は毎日アワアワで、そんな噂も立たないってのに……ホント、イヤになっちゃう。なんでこんなに違うんだろ……私と弥春(みはる)、同じ双子の兄妹なのにね、」 そう言ってニヘリと笑うが、その表情(かお)は情けなくって力弱い。
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