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それを見た母ちゃんは、途端眉間にシワを寄せ、
「……なんだソレ、もしかして、誰かに何か言われたか?」
と、低い声での巻き舌だ。
ヤバイ、出た。
この母は昔っから気が短くて喧嘩っ早いし、年をとっても衰え知らずのパワー系。
そのパワー系は、俺達双子を溺愛してる。
それはそれでありがたいけど、このままじゃ出勤前に話が取っ散らかりそうだ。
だから俺は、2人を見ながらこう言ったんだ。
「ハイ、7時ジャスト。もう出ないと遅刻する。茉春、行くぞ。それと母ちゃん、そんなに心配すんなよ。俺も茉春も22才、子供じゃないから大丈夫だ。なにかあったら、まずは双子でなんとかするから、」
母ちゃんは「でもさぁ!」と口を尖らせ食い下がる。
俺はそれを手で制してからもう一声。
「俺達だけで頑張って、それでも解決出来なけりゃ泣きつくから。その時は家族総出で助けてくれ。大丈夫、茉春には俺がついてる。父ちゃんがいつも言ってるじゃんか。兄は妹を守るんだろ? と言うコトで、行ってきます」
これ以上は本当に遅刻だ。
母ちゃんには悪いけど、返事を待たずにドアを開けると茉春が慌てて着いてきた。
「あ、ちょ、弥春待って、私も行く! 母ちゃんゴメンネ、朝から心配かけちゃった。学生の頃とチガウから、ちょっと弱音を吐いただけ。えへへ、私大袈裟だったね。大丈夫! 部署は違うけど弥春と同じ会社だもん! 安心して! じゃあ、私も行ってきます!」
外に出れば爽やかな五月晴れ。
夕方から雨が降るとか本当か?
後ろを見れば母ちゃんが大きく両手を振っている。
「弥春! 茉春! 気をつけてな! 行ってらっしゃい!」
ああ、行ってくる。
それと、通勤途中で茉春に話を聞かなきゃな。
さっきの、
____ホント、イヤになっちゃう、
____なんでこんなに違うんだろ……
____私と弥春、同じ双子の兄妹なのにね、
あの言い方が気にかかる。
誰かに何かを言われたんなら、兄ちゃんがソイツに文句を言ってやるから。
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