第一章 弥春と茉春(ミハルとマハル)

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それを見た母ちゃんは、途端眉間にシワを寄せ、 「……なんだソレ、もしかして、誰かに何か言われたか?」 と、低い声での巻き舌だ。 ヤバイ、出た。 この(ひと)は昔っから気が短くて喧嘩っ早いし、年をとっても衰え知らずのパワー系。 そのパワー系は、俺達双子を溺愛してる。 それはそれでありがたいけど、このままじゃ出勤前に話が取っ散らかりそうだ。 だから俺は、2人を見ながらこう言ったんだ。 「ハイ、7時ジャスト。もう出ないと遅刻する。茉春(まはる)、行くぞ。それと母ちゃん、そんなに心配すんなよ。俺も茉春(まはる)も22才、子供じゃないから大丈夫だ。なにかあったら、まずは双子でなんとかするから、」 母ちゃんは「でもさぁ!」と口を尖らせ食い下がる。 俺はそれを手で制してからもう一声。 「俺達だけで頑張って、それでも解決出来なけりゃ泣きつくから。その時は家族総出で助けてくれ。大丈夫、茉春(コイツ)には俺がついてる。父ちゃんがいつも言ってるじゃんか。兄は妹を守るんだろ? と言うコトで、行ってきます」 これ以上は本当に遅刻だ。 母ちゃんには悪いけど、返事を待たずにドアを開けると茉春(まはる)が慌てて着いてきた。 「あ、ちょ、弥春(みはる)待って、私も行く! 母ちゃんゴメンネ、朝から心配かけちゃった。学生の頃とチガウから、ちょっと弱音を吐いただけ。えへへ、私大袈裟だったね。大丈夫! 部署は違うけど弥春(みはる)と同じ会社だもん! 安心して! じゃあ、私も行ってきます!」 外に出れば爽やかな五月晴れ。 夕方から雨が降るとか本当か? 後ろを見れば母ちゃんが大きく両手を振っている。 「弥春(ミハ)! 茉春(マハ)! 気をつけてな! 行ってらっしゃい!」 ああ、行ってくる。 それと、通勤途中で茉春(まはる)に話を聞かなきゃな。 さっきの、 ____ホント、イヤになっちゃう、 ____なんでこんなに違うんだろ…… ____私と弥春(みはる)、同じ双子の兄妹なのにね、 あの言い方が気にかかる。 誰かに何かを言われたんなら、兄ちゃんがソイツに文句を言ってやるから。
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