第一章 弥春と茉春(ミハルとマハル)

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~~~母はなんでもお見通し・志村 茉春(まはる)~~~ 埼玉県と東京都の境。 ギリギリ都下の、家から駅まで20分。 母ちゃんに見送られ、慣れた道を弥春(みはる)と一緒にテクテク歩く。 家を出てから真っすぐ行って右に曲がって、その後は、幅の狭い一本道をひたすらいくの。 道を挟んだ両側には、結構大きなヒマワリ畑。 4月に種まき、7月頃には花が咲く。 今は一面、緑の葉っぱがモシャモシャしてて、それが風に揺れている。 5月の朝は爽やかで、なんだかとっても気持ちが良い。 あーあ、今日が休みだったらなぁ。 このまま弥春(みはる)と、どこか遊びに行くのになぁ。 会社……行きたくないなぁ。 でもなぁ、だからと言って休む訳にはいかないしなぁ。 そんな事したら会社に迷惑かけちゃうし、母ちゃんにも心配かけちゃう、…………いや、もうかけてるか。 だって、朝の母ちゃんヘンだった。 ____茉春(マハ)、入社して1ヶ月が経ったけど仕事は慣れてきたか?  ____新社会人だし色々と大変だろ、 ____まぁ、弥春(ミハ)と同じ会社だし、そんなに心配してないけどさ、 あの時の表情(かお)、”そんなに心配してない” なんて絶対ウソ。 母ちゃんはすぐに顔に出る、だからワカル、もうバレバレ。 あれはすごーく心配している顔だ。 情けないなぁ……なんで私はこうなんだろう。 小さい頃から弥春(みはる)は器用で覚えも早くてなんでも出来た。 その反対に、私はすっごく不器用で、覚えも遅くて失敗ばっかり。 そんな私を今までずっと、弥春(みはる)が助けてくれたんだ。 小中高大、学校も同じ所に通ったし、就職だって、弥春(みはる)ならもっと良い会社(トコ)いけたのに、私に合わせて同じ会社にしてくれた。 会社が決まったあの当時、家族も友達も、”会社まで同じなの!?” って、笑いながら驚いて、私も弥春(みはる)も ”そうなんだよね” と笑っていたけど、私は一人、実は密かにホッとしたんだ。 双子はずっと一緒にいたから離れるのが不安だったし、それに、弥春(みはる)がいれば心強い。 いつまでも頼っていたらダメだけど、それは分かっているんだけど、でも、部署も違うし、近くにいるけど別々にいる、そんな感じで徐々に徐々に自立が出来たら理想だなって思ってた。 弥春(みはる)の助けがなくっても、私だけで自己完結出来たらって。 それなのに……私は、私が思うそれ以上にダメダメで、仕事もあんまりうまくいかずに毎日毎日落ち込んでるの。 最近ではココロが折れかけてる、……でも、家族に心配かけたくなくて、そういう気持ちは誰にも言わずに内緒にしてた。 だけどバレちゃった、母ちゃんは気づいてる。 だからあんなコトを言ったんだ。 私の背中に手を置いて、弥春(みはる)には言わないで、私だけに ”大変だろ?” って。 あぁもう、母はなんでもお見通しだよ。
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