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さっきので、たぶん弥春も引っかかりを感じたはずだ。
そうなると、このあと絶対聞いてくる、「会社でなにかあったのか?」って。
うぅ……あったんだよぉ、あるんだよぉ、そして今日もあるんだろうなぁ。
やだ、考えたらおなかが痛くなってきた。
本当は行きたくない、休みたい。
でも、今日1日休んだところで、明日になったら行くようだし、サボって家に1人でいても、気持ちが落ちて休んだ気にはなれなそう……はぁ。
そう言えば去年、アルバイトをしてた頃、そこの社員さんが言ってたな。
本格的に社会に出たら、最初のうちは嫌な事や辛い事がたくさんあるって。
だけど、それに負けずに少しずつでも仕事を覚えて頑張ってれば、だんだんと辛い事が減ってくる、仕事が楽しくなってくるとも。
その言葉を信じれば、辛いのは今だけって事だよね?
1年経ったら仕事に慣れて、心も折れたりしないよね?
信じて良いんだよね?
そうだとすれば、辛い事はいっぱいあるけど、私が我慢をすれば良い。
家族に心配かけたくないよ。
だから内緒にしていたい。
先輩につらく当たられてる事も、質問したら舌打ちされたり、聞こえないフリをされる事も、挨拶しても無視される事も、……そういうの、ぜんぶぜんぶ。
………………ああ、おなかが痛い、胃のあたりがキリキリする。
歩きながら、コッソリおなかに手をあてた。
分からないけど、こうすると痛いのがマシになるよな気がするの。
大丈夫、まだ頑張れる、もう少し頑張れる。
……と、思っていた時だった。
隣を歩く、弥春が覗き込んできた。
「茉春、どうした? 腹が痛いのか?」
あ、もうバレた。
心配そうな顔してる。
「うん、ちょっとだけ。でも大した事ないよ。すぐに治ると思う。朝ごはん食べすぎちゃったかな」
見上げた顔は、眉間にシワが薄く寄ってる……って、あれ?
もしかしてまた身長伸びた?
私が聞くと、
「伸びたかどうかは測ってねぇから分かんねぇよ。そんなコトより腹は大丈夫なのか?」
言いながら、私のカバンを勝手に取り上げ、そのまま肩に担いでしまった。
「ちょ、大丈夫だよ。そこまでおなかは痛くないから、カバンくらい自分で持てるってば、」
「あー、良いよ。ここで倒れられたら、茉春担ぐ方が大変だからな」
「大袈裟だなぁ。ちょっとおなかが痛いくらいで倒れるワケないでしょ。てゆーか、弥春、父ちゃんみたいになってるよ? 過保護か、」
おかしくなって笑ってしまった。
兄と言っても双子だもん。
年はおんなじはずなのに、弥春はまるで保護者だよ。
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