第一章 弥春と茉春(ミハルとマハル)

5/45
前へ
/694ページ
次へ
さっきので、たぶん弥春(みはる)も引っかかりを感じたはずだ。 そうなると、このあと絶対聞いてくる、「会社でなにかあったのか?」って。 うぅ……あったんだよぉ、あるんだよぉ、そして今日もあるんだろうなぁ。 やだ、考えたらおなかが痛くなってきた。 本当は行きたくない、休みたい。 でも、今日1日休んだところで、明日になったら行くようだし、サボって家に1人でいても、気持ちが落ちて休んだ気にはなれなそう……はぁ。 そう言えば去年、アルバイトをしてた頃、そこの社員さんが言ってたな。 本格的に社会に出たら、最初のうちは嫌な事や辛い事がたくさんあるって。 だけど、それに負けずに少しずつでも仕事を覚えて頑張ってれば、だんだんと辛い事が減ってくる、仕事が楽しくなってくるとも。 その言葉を信じれば、辛いのは今だけって事だよね? 1年経ったら仕事に慣れて、心も折れたりしないよね? 信じて良いんだよね? そうだとすれば、辛い事はいっぱいあるけど、私が我慢をすれば良い。 家族に心配かけたくないよ。 だから内緒にしていたい。 先輩につらく当たられてる事も、質問したら舌打ちされたり、聞こえないフリをされる事も、挨拶しても無視される事も、……そういうの、ぜんぶぜんぶ。 ………………ああ、おなかが痛い、胃のあたりがキリキリする。 歩きながら、コッソリおなかに手をあてた。 分からないけど、こうすると痛いのがマシになるよな気がするの。 大丈夫、まだ頑張れる、もう少し頑張れる。 ……と、思っていた時だった。 隣を歩く、弥春(みはる)が覗き込んできた。 「茉春(まはる)、どうした? 腹が痛いのか?」 あ、もうバレた。 心配そうな顔してる。 「うん、ちょっとだけ。でも大した事ないよ。すぐに治ると思う。朝ごはん食べすぎちゃったかな」 見上げた顔は、眉間にシワが薄く寄ってる……って、あれ?  もしかしてまた身長伸びた? 私が聞くと、 「伸びたかどうかは測ってねぇから分かんねぇよ。そんなコトより腹は大丈夫なのか?」 言いながら、私のカバンを勝手に取り上げ、そのまま肩に担いでしまった。 「ちょ、大丈夫だよ。そこまでおなかは痛くないから、カバンくらい自分で持てるってば、」 「あー、良いよ。ここで倒れられたら、茉春(まはる)担ぐ方が大変だからな」 「大袈裟だなぁ。ちょっとおなかが痛いくらいで倒れるワケないでしょ。てゆーか、弥春(みはる)、父ちゃんみたいになってるよ? 過保護か、」 おかしくなって笑ってしまった。 兄と言っても双子だもん。 年はおんなじはずなのに、弥春(みはる)はまるで保護者だよ。
/694ページ

最初のコメントを投稿しよう!

414人が本棚に入れています
本棚に追加