第三章 弥春の決断

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たぬきちは、背中を丸めてショボンとしていた。 母狸を思い出しだしたのか、鼻をグズグズすすってる。 ヤベェ、……やらかした。 昔、ガキだった頃。 聞かれるままに家の事をまわりに話すと、ヒソヒソされたり親を悪く言われたり、挙句の果てには嘘つき呼ばわりさていた。 あの頃のイヤな思いと面倒くささが、たぬきに対して張らなくて良い予防線を張っちまった。 「たぬきち、辛い事を思い出させたな。今のは俺が悪かった」 言いながら、少しかがんで手を伸ばす。 背中にふれればひんやりしてて、そのまま毛皮を撫でつけた。 されるがままのたぬきちは、 『たぬ……良いんだ。弥春(みはる)は悪くないよ(チラッ)。オレの話をよく聞かないで早とちりして、”一緒には住めねぇよ” なんて、コワイ顔で言われたけど(チラチラッ)、それがすっごく悲しかったけど(チラッ)、志村家以外に行く当てもない非力な狸を捨てようとしたけど(チラッチラッ)、でもでも弥春(みはる)は悪くない(チラチラチラチラ)。みーんなオレが悪いんだ(チラーーーーッ)』 か細い声で、俺をチラチラ何度も視ながらそう言った。 うわ……メンドクセ……なんだこりゃ。 この狸、口で言ってるだけで自分が悪いとは絶対思ってねぇよな……ま、合ってるけど、今回コイツは悪くないけど。 「っだよ、たぬきちは悪くねぇよ。俺が悪かったって言ってんじゃんか。今度ポテチでもなんでも買ってやるから機嫌を直せ」 『たぬ!?(キラーッ!)なんでもって本当か? じゃあじゃあ! ポテチはいらないから千円くれよ!』 「金!? そんなモンを要求するなんざ生々しいな。おまえ……たぬきのクセして千円をなんに使うんだよ」 千円くらいやっても良いけど使い道な。 何を買うのか知らねぇけど、……って、ホントに何を買うんだよ。 菓子じゃねぇよなぁ……? 菓子なら金がなくっても、俺か茉春(まはる)に ”買って!” と言えば済む話。 たぬきは何を買いたいのか、考えても浮かばねぇから聞いてみたんだ。 するとたぬきちは、 『千円もらったら茉春(まはる)にプレゼントを買うんだ! どんぐりはあげたけど、他にも色々あげたいからな! でも……オレは狸でユーレーだから金なんて持ってない。それで弥春(みはる)から巻き上げようと思ったんだ!』 こう答え、ブリッジするほど胸を張る。 「へぇ、茉春(まはる)にプレゼントねぇ。ま、そういうコトなら文句はねぇわ。でもよ、惚れた女にプレゼントだろ? その為の金を俺から巻き上げるってどーなんだよ。茉春(まはる)が知ったら受け取らねぇかもな。あ、ちなみに何を買おうとしたんだ?」
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