毎朝私はあなたのために卵を焼く

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 カタンと静かに玄関が開けられる音で目を覚ました。  どうやらユメさんのブログを見ながら居眠りしてしまったようだ。  色々と溜まった家事を片付けるチャンスだったのに、時間を無駄にしてしまった……。 「おかえりなさい」  私が声をかけると、亮君は何だかバツが悪そうな顔をした。 「恵菜ちゃん、寝てて良かったのに……」  ジャケットを脱ごうとする亮君の息からぷんとアルコールの匂いがする。 「……亮君、お酒飲んできたの?」  寝起きだった私は多分表情に出てしまっていたのだろう。それを見て、亮君は顔を歪めてみせる。 「残業で遅くなって、晩飯の時にビールを飲んできたんだ」 「そっか……」 「頑張って仕事してきたんだ。ビールぐらい良いだろ?」 「別に文句を言っている訳じゃなくて……」  アルコールの入っている亮君は何だかいつもより刺々しい。 「恵菜ちゃんこそ、ここんとこスマホばっかだ。何か隠してるんじゃない?」 「そんな事ないよ。亮君の為にユメさんの……」 「ユメさん、ユメさん、って本当は男じゃないのか?」 「何言ってるの? ユメさんは……」  私はそこまで言ってから、ふと言葉をとめた。  私はずっと、ユメさんの事を20代後半ぐらいの女性だと思ってきたけれど、本当のところはどうなんだろう。  そう言えば、男とも女とも書いてなかったけれど……。 「えっ……、まさか本当に男?」  そう言う亮君の声は、今まで聞いた事もないぐらい低いものだった。 「えっ、違っ……。私は亮君の為に一生懸命ご飯作って……」 「俺はそんな事望んでないよ。恵菜ちゃん、最近ずっと目も合わさずにスマホばっか見てる。どこの誰だかわからない男から聞いたレシピで飯作られても嬉しくないよ!」 「……ユメさんの悪口言わないでよ」 「なら、ユメさんと結婚すれば良かっただろ!」  何でユメさんと結婚? 意味わからない。  私は亮君の為に一生懸命やっているのに。  何でわかってくれないの?  頭の中で吐き出したい思いがぐるぐる回る。それらがいっぺんに押し寄せてきて、喉の奥辺りで渋滞が起きた。  そしてそれは真っ黒い大きな塊となって、何だか私は息が苦しくなる。  亮君はくるりと私に背を向けると、「風呂に入ってくる」と言って部屋を出ていってしまった。
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