毎朝私はあなたのために卵を焼く

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 フライパンの中でジュージューとお肉の焼ける音がする。  何だか香ばしい匂いがしてきたなと思って蓋を開けてみると、お弁当用に作った牛肉の野菜巻きが焦げていた。  ユメさんのレシピは塩少々とか火が通るまでとか曖昧で、初心者の私にはわかりにくい。  ユメさん、ちゃんと教えてよ。  私はどうしたら良いの……。  私は亮君の為に一生懸命やっているのに……。    後ろから「おはよう」と亮君の小さな声がする。  喉の奥の方では、焦げた野菜巻きのような黒い塊がまだ燻っていて、私は何の言葉も発する事ができないでいた。  亮君は硬くなった目玉焼きをクルクルと巻いてからホークで突き刺さすと、ウインナーみたいに食べ始める。  でも今日は「うん。美味い、美味い」とは言ってくれない。  昨日はよく眠れなくて、目の前が何だかチカチカする。  亮君が小さな声で「いってきます」と言ったと気がついたのは、玄関ドアがガチャリと大きな音を立てた後だった。
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