毎朝私はあなたのために卵を焼く

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永山(ながやま)ちゃん、今日もお弁当なんだ」  パートの大森(おおもり)さんにそう声をかけられて、社員食堂へ向かおうとしていた私は足を止めた。  姓はまだ慣れていなくて、その名前で呼ばれる度、胸の奥の方がくすぐったくなる。 「でも、今日も失敗しちゃって……」  今日のお弁当メニューは、豚肉のタレ炒めと卵焼きに、昨日の残り物のポテトサラダ。  でも卵焼きは何度焼いても上手くいかない。  焦げてボソボソになるし、どうしても綺麗に巻けないのだ。 「何度もやってれば慣れるわよー」  大森さんは午前中だけの時短勤務だけど、私が入社する前からこの会社で働いているベテランさんだ。  しっかりしていて頼りになる、総務部のお母さん的存在なのだ。 「そうですかね……」  私はそう言って小さく息をつく。 「でもいいわねー。そうやって毎日旦那さんの為に頑張って料理してるのって。新婚さんって感じ」 「大森さんとこもご家族仲が良いじゃないですか。大森さんも毎日旦那さんにお弁当作ってるんですよね?」 「ウチは食費を浮かす為だから。まだまだ子供の学費かかるし、結婚して20年もするとトキメキなんかないからねー」  大森さんはそう言うと豪快にガハハっと笑った。
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