毎朝私はあなたのために卵を焼く

6/12
前へ
/12ページ
次へ
「明日、水族館に行かない?」  亮君は豆腐の水切りが甘くて何だか水っぽくなってしまった麻婆豆腐を口に運びながらそう言った。 「う……、うん。そうだね」  思わず言葉に詰まってしまったのは、日曜は布団を干したりシーツなど大物の洗濯をしようと思っていたからだ。  結局今日は食品の買い出しとその下ごしらえで一日が終わってしまった。  でもたまには夫婦でお出かけしないと。  毎週末掃除やら洗濯ばかりでは亮君もうんざりだろう。  そう言えばユメさんは『人間ホコリでは死なないから、毎日掃除機なんてかけなくても大丈夫ー』って言ってたっけ。  明日は早起きしてできる家事を片付けておいて、支度をしてる間にちょっとだけ布団を干せば良いだろう。 「恵菜(えな)ちゃん……、随分と早起きだね」  目を擦りながら寝室から出てきた亮君は、しっかりメイクも身支度も済ませた私の姿を見てそう言った。 「うん。水族館楽しみだから」   「恵菜ちゃん。どんだけペンギン好きなんだ」  そう言って笑う亮君の屈託のない笑顔は、何だか久しぶりに見るような気がして、こっちまで嬉しくなった。 「よし。上手くできた」  白いランチプレートに載せた目玉焼きは、ツヤツヤの半熟に仕上がっていて、黄身も割れていない。  いつものようにクルクルっと巻いてフォークで突き刺さすと、トロトロの黄身がこぼれてきてしまって、亮君は「うわぁ」と慌ててた。 「うん。美味い、美味い」といういつものセリフも、本当に嬉しそうで、こっちもテンションが上がる。  早起きして本当に良かった。  今日は良い一日になりそうだ。  今のうちにお布団干して、シーツも洗濯しておかなくちゃ。 「恵菜ちゃん、朝飯は?」 「ごめん。先に食べちゃった」  本当はまだだけど、やらなきゃならない事は沢山ある。  早起きしたものの、まだ寝てる亮君を起こさない為にできる家事は限られていたから。  亮君との水族館デートの為に頑張らなくちゃ。  
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加