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人生の前半は幸せだった。仲が良く優しい両親、なかなかに綺麗で成績優秀な姉とともに、普通に暮らしていた。
あの日までは……。
ある夜、高校で生徒会役員の活動を終えて帰宅中の姉が襲われた。
血まみれになって帰ってきた彼女は、両親の手の中で息をひきとった。胸部に深々とナイフが突き刺さっていた。
犯人は近くに住む大学生で、数ヶ月にわたって姉に対しストーカー行為を繰り返していた男だ。
つきまといや無言電話、あるいは脅迫まがいのことまでして姉に迫っていたが、ついに凶行に及んだ。
姉は死ぬ間際、両親にその男に刺されたと告げていた。目撃者もいた。逮捕は確実だと思われた。
しかし……。
警察は証拠不十分として男を逮捕しなかった。目撃者も、いつの間にか証言を取り消していた。
男の父親は、外務省の重鎮だった。政権にも警察にも影響力を持つ。
何度もしつこく捜査のやり直しを訴えていた両親は、車で移動中暴走するトラックの無謀運転に巻き込まれて事故を起こし、死んだ……。
そういうことなのか……。
当時中学生だった龍一にもわかった。テレビドラマなどでよくある、権力者による一般市民への強権発動……そんなものは実際にはなく、きっと正義が勝つのだと信じていた思いは、見事に砕け散った。
親戚に預けられた龍一の人生は、その後復讐一色に染められた。
残された哀れな弟を演じながら体を鍛えた。中学、高校と柔道部に入り、同時に空手部の友人から打撃技も教わっていった。
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