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 高校卒業後は自衛隊へ入り鍛錬を続けた。その甲斐があり、レンジャー資格もとった。  素手で人を殺す技もいくつも身につけた。銃や爆発物の取り扱いも覚えた。優秀な隊員として何度も表彰され、いずれは幹部になるだろうとも言われた。  そのまま別の人生を歩む事も頭をよぎったが、そのたびに目に浮かんだのは、両親と姉の笑顔だ。  善良で何の罪もない家族が、たった一人の身勝手な衝動のために殺され、理不尽にもその事実が闇に葬られた。それは、許すことはできない。絶対に許さない――その思いだけが、龍一を支えていたのだ。  自衛隊に所属しながら事件を調べ続けた。  殺害した男、その事実を隠蔽させた父親、指示に従って圧力をかけた警察幹部、更にその下で事実をねじ曲げて大金をせしめた警察官達――ターゲットは6人。  休暇をとった龍一は除隊届けを上官に送り、連中を次々殺害した。  姉を実際に殺した男は、その父親の目の前で首を斬り裂いてやった。息子の死を嘆くより自分の命乞いを優先した父親は首をへし折った。  正義より私腹を肥やすことや昇進を望んだ警察官達は、姉や両親に詫びの言葉――うわべだけだろうが――を言わせた後で射殺した。  虚しかったが、やり遂げたという思いはあった。  自首する前に、龍一は姉や両親の死を含む全てのことを記した書類をマスコミに送った。  それで今後、そのような横暴がなくなるための、少しでも助けになればと思った。しかし、外務省や警察組織が暗部を隠すことにし、マスコミに圧力をかけた。  大手の新聞社やテレビ局は(だんま)りを決め込んだ。  一部、アングラと言われ眉唾に見られていた雑誌社や、地方ではあるがまだジャーナリズムの矜恃を持ち続けていた新聞社とテレビ局がわずかに報道したものの、それが大きく広がることはなく、いつの間にか話題にものぼらなくなった。ネットで盛り上がったとしても、それが表の社会で功を奏することもない。  事情はどうあれ大量殺人を行った龍一には死刑判決が下された。それで良いと思った。最初から覚悟していたのだ。だが……。  結局、クソだ、この世の中……。  そんな思いを抱きながら、死刑囚として執行の日を待っていた。  それが、突然――。
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